懺悔 ライダーカード と共に復刻・・・。
 
カードとアルバム

 「ライダースナック」がカード付で再発された(正確には「ライダーチップス」)。

 僕は前回のライダーカードをアルバム入りでまだ持っている。僕の宝だ。枚数も相当量 ある。数えたことはないが。ただ、このカードの大半は自力で集めたものではない。


 “イジメ”が深刻な社会問題として語られるようになってから随分と経つ。
 “イジメ”はいけない。当然だ。
 「いじめられる側も悪い」という声もたまに耳にするが、それは違う。いじめる奴が断固悪い。
 「教師が悪い」「いじめる子の家庭に問題がある」などとという声もある。或いはある部分そうかもしれない。だけどやはり根本は、いじめる奴が悪いのだ。奴らは卑劣だ。クズだ。
 僕はいじめる奴の味方は絶対にしない。

 それは、僕が“いじめっ子”だったからだ。


 小学生の頃僕は、勉強ができると思われていた(と書くくらいだから、本当はできなかった(笑))。

 僕は“作文”と“絵画”と“体育”(つまり努力無しにできるもの)が得意な子供だった。作文は毎年賞を貰い、全校生徒の前で表彰を受け、県文集や新聞にも度々掲載された。絵画も幾度かコンクールに入賞し、賞状を貰った。また、野球をすればいつもピッチャーで、運動会で走れば一等賞を譲ったことはなかった。

 たとえテストの点数が悪く、お粗末な通信簿で親からドヤされていても、僕は周りから成績の良い子のように錯覚され、ずっと学級委員にも選ばれていた。実際は、ただの目立ちたがり屋のお調子者にすぎなかったのに。

 子どもは目先の華やかさに弱いので、友達も自然とたくさん寄ってくるようになり、厭らしいことに僕は、ちやほやされる自分に有頂天になっていた。


 何が気にくわなかったのかは憶えていない。いや、本当は気にくわないことなんかなかったのかもしれない。からかっているのがエスカレートしてしまった…というのが真相かもしれない。増長していた僕は、近所のM男を目の敵のようにいじめるようになっていた。

 大好きな仮面ライダーごっこで必ず僕は本郷猛だった。この役は絶対に譲らなかった。M男は、ショッカーの怪人にもなれず、いつも戦闘員だった。
 僕はM男を投げ飛ばし、蹴り上げ、爆竹を持たせて爆破させた。
 同調して他の遊び仲間もM男をいいようにいじめるようになっていった。
 そんな毎日でも、M男は必ず僕らと遊んだ。
 そして、こちらから要求したわけではなのに、M男は僕にライダーカードをごっそりとくれるようになった。カードに目がなかった僕は、遠慮無くカードを受け取り、アルバムも数冊貰った。

 M男は、僕のことが好きなんだと、単純に僕は思っていた。

 しかしある朝、いつものようにライダーごっこに興じながらの通 学路、追いかけられたM男は思いきり転び、膝から血を流した。そして泣きベソをかきながら、僕を睨み付け、叫んだ。

 「僕はね、Fクン(僕の本名)のことなんかね、ちっともエライなんて思ってないんだからね! この前朝礼で校長先生から誉められた時だって、皆は拍手してたけど、僕だけしなかったんだから!」

 いやなショックを感じた。
 けれどそれを聞いた僕は「誰がお前の拍手なんか欲しいかよ!」と、M男のランドセルをもぎ取り、ドブ川に投げ入れた。
 しゃがみこむM男を置いて、僕は学校へ向かった。

 翌朝、通学途中の坂道で見知らぬおばあさんが近付いてきた。M男の祖母だった。
 M男が学校に行きたくないと云うので、理由を訊くと、僕の名前を挙げたと云った。
 どんなに生意気でも、こっちは小学生だ。年寄りに睨まれたら、なすすべはない。僕は「M男クンの、拍手をしなかった…」という言葉に腹が立ったと、やっとの思いで云った。老女は「カラスが哭いているとでも思って、聞き流してやってください」と頭を下げた。
 返事をせず、僕は学校へ急いだ。


 同じクラスのK子は、クラスの全員から無視されていた。
 彼女には、生まれながらの病気があった。

 そんなことで差別するのは恥ずべき事と、子供心ながらに僕は正義感を燃やしていた。僕だけは彼女を無視すまい。僕だけは、仲良くしてあげよう、本気でそう思っていた。
 実際、クラスで彼女と口をきくのは僕だけだった。オツムは良くないが、悪い娘ではなかった。

 そんなある日の体育の時間、K子は発作を起こし、倒れた。失禁し、意識を失った。
 子供達は皆、その失禁を汚がった。

 そして僕もその日から、K子を無視する側にまわってしまった。

 彼女の机には誰も触れなかった。間違って触ろうものなら「エンガチョ!」をされ、それだけで教室中がパニックになった。
 給食のおかわりの順番も、彼女がおかわりをしたあとは、ぱたっと誰も席を立たなくなった。
 当時流行していた山本リンダの歌をK子が口ずさんでいるのを耳にした途端、誰もその歌を唄わなくなった。事情を知らない者が山本リンダの歌を唄えば、そいつまでもが「エンガチョ!」される始末だった。
 フォークダンスでは、手をつないでもらえず、教室の掃除の時でさえ、K子の机は触られなかった。

 この陰湿な状態が何年も続いたあるホームルームで、K子は“イジメ”についての実体を担任教師に告げ、その首謀者に、意外にも僕の名前を挙げた。
 僕は、教壇に立たされ、先生から事実を確認された。学級委員が先導していたと、担任には映ったようだ。
 先生は「歯を喰いしばれ」と云うと、思い切り僕の顔を殴った。

 クラス全員の前で僕の身体は吹っ飛び、耳はキンキンし、軽い眩暈が疾走った。

 蒼白の僕の顔には、殴られた痕がくっきりと残った。家で母親からその痕のことを問いただされたが、みっともなくて本当のことは云えなかった。父親は「大方、誰かと喧嘩でもしたんだろ」と、詳しくは訊いてこなかった。

 けれどK子に対する“イジメ”は、そんなことでは終わらなかった。
 僕自身、もう生理的にK子を受け付けなく、相変わらず無視し続けた。

 小学校の卒業文集に、K子は『友だち』という題の作文を寄せていた。
 「私には友だちがいない ―」
で始まるその作文を、未だに僕は読めないでいる。


 中学生になって、僕の化けの皮は剥がれ始めた。

 こぞって皆塾に通うようになり、揃って誰もが成績を上げ、一方剣道部の稽古に明け暮れ、音楽に夢中でギターばかり弾いていた僕は、途端に落ちこぼれになっていった。

 K子は特別な施設に入っていた。それが良いことかどうか判らないが、小学校の頃のような無視される目には遭っていないだろうことは推測できた。

 ある夕方、部活からの帰路、僕はK子とその施設の仲間たちに出くわした。
 「こいつよう、Fって云って、小学校の時あたしのことをさんざイジメてくれてさぁ…」
 その台詞にぞっとした僕は、一目散にそこを逃げた。とにかく走った。振り返らずに走った。叫びたくなるのを堪えながら走った。脚がもつれ、咽喉がからからに乾いた。

 あんなに怖い思いをしたことは、もう無い。


 その後僕はどうしようもない落ちこぼれの高校に進学し、バイクと、ガールフレンドと、音楽三昧の毎日を送っていたが、一念発起し、1年浪人の後、都内の大学に進んだ。

 大学生活は、人生の中でも一番気楽な時だった。
 学校へは全く行かず、バイトに精を出し、バンドでライブハウスを回り、家にも帰らず女の子の部屋でごろごろしていた。

 ケーキ屋で販売員のアルバイトをしていた時期があった。
 そのケーキ屋に、突然K子が現れた。

 店に入ってきた瞬間に彼女だとわかった。赤ん坊を抱いていた。どう見てもカタギではないオトコが一緒にいた。
 僕は瞬時にして裏の事務室に隠れ、用もないのに伝票をチェックするふりをした。店の方からはK子がケーキを注文している声が聞こえる。
 長い長い時間に感じた。会計の音がした。ほっとした矢先
 「いまここにいた方、Fさんじゃありません?」という会話が聞こえてきた。バレていた!!!
 他のバイトの娘が「そうですよ。お知り合いですか?呼びましょうか?」などと、余計なことを云っている。
 万事休す!
 「Fくん、お友達が来てるわよ」バイトの娘が呼びに来た。
 「???誰だろう・・・」などとすらっとぼけながら、僕は腹をくくって店に出た。

 「Fくん。K子です。憶えてますか?」
K子はにっこり微笑った。
 「あ、ああ、久しぶり」
僕は声が掠れた。
 「子供が産まれたの。あたし、身体が弱かったでしょ。だから心配したんだけど、ほら」
と云って、彼女は赤ちゃんの顔をこっちに向けた。
 「それと、主人です」
紹介されたコワ面のオトコは「どーも」とだけ云った。

 「そうか。良かったね。おめでとう」
 背中を、汗が伝った。

 K子が店を出てからご主人に僕のことをどう話したかは判らない。

 間もなく、その小学校のクラス会があった。欠席者2名という驚異的な出席率に担任教師は吃驚していたが、当然K子はその中にはいなかった。
 ケーキ屋での出来事も、僕は誰にも話さなかった。


 それ以来K子の姿は見掛けない。
 M男もいまどうしているかは知らない。

 ただ、あの頃の夢はよく見る。
 すると決まってびっしょり寝汗をかく。

 あの二人が過ごしたつらい何年間を、僕もいまなら思い遣ることができる。
 だけど、あの当時気付かなかったことで、僕もずっと逃げ続け、夢にうなされ、我が子の身を案じてしまう。

 ライダーカードを再び見て、背筋の凍るような思いをしてしまう。

 “イジメ”に遭った者の立場から云えば、それがどうした!ということになるだろう。僕らはもっと苦しんだんだ。と。

 だからこそ。

 “イジメ”の記事を見る度、僕は持って行き場のない懺悔に、苛まれてしまう。

 

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