幻のメロディー ロンリー・ウルフ
喜多条忠:作詞 大野克夫:作曲

大野克夫

 

 70年代の所謂“フォーク・ブーム”の後、それまで作詞家・作曲家の先生が凌駕していた日本の音楽界(歌謡界と云った方がいいのかな)は、シンガー・ソングライターたちの台頭にとって変わられた。
 それでも70年代はそのシンガー・ソングライターたちが作曲家の先生よろしく、アイドルに曲を書き下ろしたりもしていたが、「アイドル歌手」というタレントもいなくなってしまった今、歌う人が曲を作っているのは当たり前の状況になっている。
 筒美京平が吉田拓郎の登場に「脅威を感じた」と云っていたのは、拓郎の曲作りのセンスやアプローチもさることながら、こうした現在の日本の音楽界(もう歌謡界ではなくなってしまった)を予測してのことだったのかもしれない。

 シンガー・ソングライターたちが登場した時代、確かにあの時代にはシンガー・ソングライターの書く曲が新鮮だった。作詞家・作曲家の先生が書き下ろす歌謡曲にはない“自由さ”があるように聴こえた。身近な題材の詞、楽理に裏打ちされていないメロディーは、感情が素直に受け付けた。歌が手の届くところにあり、自分の想いを代弁しているようにも感じた。

 けれどそれは、作詞家・作曲家の先生が書き下ろした歌謡曲が、シンガー・ソングライターの書いた歌に劣っていたということではない。
 筒美京平の曲はヒットすべく作られ、フォークと比較すると“商品”の匂いがしたかもしれない。しかし筒美京平の“商品”は、ことごとくヒットする秀作である見事さを内包している。それはシンガー・ソングライターたちが真似できる業ではなかった。

 沢田研二の一連のヒット曲の中で、僕が最も好きな楽曲は『ロンリー・ウルフ』。
 この曲には、フォーク上がりのシンガー・ソングライターたちの手には負えない、“プロの作曲家”としての業と気品がある。
 そしてそれを沢田研二が歌う時、得体の知れない“凄み”となって、聴く者を震え上がらせる。
 僕がシンガー・ソングライターの歌を聴けば、詞を語り曲を語らせるが、『ロンリー・ウルフ』にはどこにも下手な拘りなど申し訳させない、ただ歌そのものの存在感がある。「自分もこんな曲を書いてみたいな」なんて滅相もない、レベルの違う異彩を放っている。

 作曲したのは、大野克夫。
 ザ・スパイダースを経て、PYG、井上尭之バンドで活躍したキーボーディストだ。
 『ロンリー・ウルフ』の他にも、沢田研二の一連のヒット曲『時の過ぎゆくままに』『勝手にしやがれ』『サムライ』『ダーリング』『カサブランカダンディ』『LOVE(抱きしめたい)』等々を作曲したコンポーザー。『太陽にほえろ!』や『傷だらけの天使』のテーマ(インストゥルメンタル)を作曲したのもこの人。

幻のメロディー2 その大野克夫が、歌謡曲制作の為に録ったデモ・テープを、アルバムに纏めて発表している。
 『幻のメロディー』『同 vol.2』『同 vol.3』。
 かなり昔からそのデモ・テープの完成度は噂に聞いていたが、待ち望んだ蓋を開ければその凝り様のみならず、大野克夫の魅力に目眩がするほどだ。
 デモ・テープを作るという作業は、目的を越えて趣味の世界に走りがちになる。そうして趣味の世界に走ってしまうからこそ、とんでもなく良いものが出来上がったりする。時には正式リリースされたものよりも。
  大野克夫のデモ・テープも、例外ではない。

幻のメロディー3 奇跡的に保存されていたカセット・テープから収録されたという『時の過ぎゆくままに』が、このアルバムで一番の目玉だろう。
 しかし僕はやはり『ロンリー・ウルフ』に、ジュリーが歌っているのではないからこそ見えてくる“曲”の真髄を感じ入り、ひとり溜息をついた。

 


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