Have A Nice Day CDBOX Have A Nice Day
吉田拓郎

 

 昔、レコードはとっても大切なものだった。CDしか知らない今の子たちには想像もつかないかもしれないけど。
 扱い方ひとつで、例えばプレイヤーの針の落とし方ひとつで盤に傷つけてしまったり、爪で引っ掻いたり。致命的なのは、落としたら割れてしまうこと。
 それにお小遣いで買うには、とっても高価な値段だった。

 いつ頃からだろう。迷わず悩まずひょいとレコードを買えるようになったのは。
 それはそれで幸せなんだけど、でも、少ないお小遣いのやりくりで迷いに迷い抜いて選んで買ったレコードには、簡単に買えてしまった物より、深い思い出が宿っている。

 レコードの袋からそぉ〜〜〜っと盤を出し、盤面を指で触らないように両端を挟むように持ち、ターンテーブルにのせる。そして、慎重に慎重に針を落とす。スピーカーからこぼれてくるその音に心躍らせ、奮わせ、時に涙し、それを至福の時間として僕は青春期を過ごして来た。
 針が戻ると、レコード・スプレーなるものをシュっとし、専用のクリーナーで丁寧に丁寧に盤面のホコリを拭き取った。レコード・スプレーは、香水のような甘い匂いがした。

 通販とコンサート会場での販売限定で、吉田拓郎のシングル・レコードをCD化したボックス・セットが出た。『Have A Nice Day』。

 75年9月にリリースされた『となりの町のお嬢さん』から僕は、もれなく発売日に拓郎のレコードを買っている。
 ミニチュアで再現されたそれらのジャケットを眺めていると、その時々の想い出が甦ってなんだかくすぐったい。友人の顔、部室の臭い、憂鬱な定期試験、受験、そして恋してた女の子のこと… ジャケットを繰るごとに、想い出も年を重ねていく。
 そこには、くるくる回るレコード盤を見つめている僕がいる。

 中学の時、僕は視聴覚委員(所謂放送委員)に任命されて、お昼の放送でディスク・ジョッキーみたいなことをしていた。
 ビートルズ、よしだたくろう、泉谷しげる、かぐや姫、、、 自分の好きなレコードばかりかけていた割には、評判がよかった。
 ある日クラスの女の子が、このレコードをお昼の放送でかけて欲しいと、小椋佳のアルバムを持参してきた。
 「いいよ」
 レコードを預かろうとすると、それはダメだという。自分で放送室まで持っていくと。
 「だったら一緒に放送室でお昼(弁当)を食べよう」と誘うと、その子は初めからそのつもりのようだった。
 お昼の放送が始まり、僕がその小椋佳のリクエスト曲を紹介すると、女の子は自ら震えるような指でゆっくりとレコードに針を落とした。
 曲が終わると今度は丁寧に丁寧にレコード盤を拭き、大事そうにジャケットに収納めた。
 僕はその一部始終を見ながら、彼女のLPレコードを大切にする気持ちが、痛いほどわかった。

となりの町のお嬢さん 拓郎のシングルCDBOXを一枚一枚かけながら、あれやこれやを想った。
 どれもいまだにレコードで持ってはいても、レコードをターンテーブルにのせるのが面倒で、シングルにしか収められていない曲は、聴く機会もおそろしく減っている。
 懐かしい『流れる』をかけたら、イントロが始まった瞬間に、レコード・スプレーの匂いがした。確かにした。
 それだけで鼻の奥がつ〜んと熱くなった。

 


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