拓郎 恋の歌
吉田拓郎 作詞・作曲

吉田拓郎

 

 灰田勝彦が好きだ。
 親父がよく歌っていた。だから僕が知っている灰田勝彦は、その親父の歌と、懐メロ番組で観た『燦めく星座』や『鈴懸の径』や『野球小僧』だった。
 その後、中学生になって灰田勝彦のLPレコードを買った。ローリング・ストーンズと迷って、結局灰田勝彦を買った。客観的に見れば、おかしな子供だ。でも、ストーンズじゃなく灰田勝彦を選んでしまったその少年の気持ちは、いまも解る。
 で、その灰田勝彦のLPレコードがとっても良かった。音の古い新しいじゃなく、粋だった。独特のボーカルは云わずもがな、楽曲の水準が驚くほど高かった。貪欲なチャレンジ精神も見てとれた。この志の高さは、いまの日本のレコード業界にはない。
 高校を卒業する際、部活の追い出しでサントリー・レッドをラッパ飲みした僕は、救急車で病院へ運ばれた。その救急車の中で僕は「男純情の〜愛の星の色〜、冴えて夜空にただ一つ〜、あふれ〜る想〜い〜♪」と歌っていたらしい。卒業することより、受験に失敗したことより、別れた彼女の顔を二度と見られなくなることが淋しくて悲しくてならなかった。

 だが僕が好きな灰田勝彦は『燦めく星座』ではなく、『マウイ・ワルツ』と『森の小径』だ(笑)。
夏が来れば 想い出す
月の浜辺 碧い海

ああまた逢える 砂浜で
南の唄 唄おうよ

『マウイ・ワルツ』
 別に歌詞を割愛したわけではない。たったこれだけの歌だ。メロディも8小節しかない。洋楽のポップスのように、繰り返しと間奏でシングル・サイズにもたせてある。
 日本の歌謡曲を聴いてきた僕にとって、洋楽の歌詞のあっけなさは新鮮に思えた。ニール・セダカもポール・アンカも、そして初期のビートルズも、シンプルで他愛ない歌詞を歌っていた。
 そんな洋楽くさいことを日本の歌謡曲でやってのけてたこの歌を、当時の人たちはどう受け止めていただろう?

 灰田勝彦は「ハワイ生まれの江戸っ子」と呼ばれていたそうで、ヨーデルを効かせた曲や、ハワイアンなど、ハイカラな曲を多く歌っていた。この『マウイ・ワルツ』も、タイトル通りのハワイアンである。
 前にも書いたが、僕はハワイアンに弱い。殊更ハワイが好きなわけじゃないのに、楽曲のジャンルとしてのハワイアンに、滅法シビレてしまう。そしてこの『マウイ・ワルツ』のシンプルな恋の表現にシビレてしまう。泣かされてしまう。恋は多くを語らない方がいい。

 同様に、
ほろほろこぼれる 白い花を
うけて泣いていた 愛らしいあなたよ

憶えているかい 森の小径
僕もかなしくて 青い空仰いだ

なんにも言わずに いつか寄せた
ちいさな肩だった 白い花夢かよ

『森の小径』
の、やはりシンプルな8小節から成る曲が、たまらなく胸をくすぐる。
 ハワイアンのサウンドに、灰田勝彦の淋しさや翳りのない鼻にかかった明るい声。なのに何故この歌を聴くと、涙が出てくるのだろう…?

 拓郎の『恋の歌』(『オン・ステージ第2集』('72))を初めて聴いた時、『マウイ・ワルツ』や『森の小径』に似た感慨を得た。
 そして『ぷらいべえと』('77)版の『恋の歌』を聴いて、更に感じ入った。
 (その他、『ドボチョ〜ン一家』のラニアルズ('74)も、所ジョージ('99)もカバー)
熱い熱い涙が 君の頬をぬらして
僕の唇にひとしづく落ちて来た

僕は僕は知っている 悲しいからじゃないんだ
君の唇が 僕を好きとさヽやいた

想い出せば遠いあの日
冬が過ぎて 僕達にも
暖かい太陽が この腕の中にあった

夏も過ぎてゆく頃 赤い夕日が消えた
君にさよならも云えないで 僕は泣いた

『恋の歌』
 僕はこの『恋の歌』が大好きだ。拓郎も『オン・ステージ第2集』の中で一番好きな歌だと云っている(いまはどうか知らん)。
 “ラブ・ソング”ではなく“恋の歌”が好きな僕にとって、『恋の歌』はまさしく“恋の歌”の中の“恋の歌”。聴くほどに、口ずさむほどに切なく胸をしめつける。

 この歌のどんなところが好きなのかと問われると困る。
 とにかく好きなのだ。
 シンプルな歌詞に、D - Bm - D - Bm の恐ろしくシンプルなコード。「ひとし〜づく落〜ち〜て〜き〜た♪」のA - G - D は、作曲やコード理論の試験ではペケを喰らってしまう御法度の完結。でも、これがとても気持ちいいのだ。
 拓郎お得意のF#での半音展開(「想い出せば〜遠いあの日〜♪」)も、軽い胸騒ぎを想わせる。
 まあ、取り立ててどうというところのない旋律だが、「自然に体からメロディが湧いてきて、そのメロディが即商品となる作曲家」と近田春夫に云わしめさせた、こねくりまわしたら出来ない美しさがこの歌にはある。
 そしてこの歌を作るとき、拓郎の中に『マウイ・ワルツ』や『森の小径』は無かっただろうか? …と想像してしまう。

 僕は死ぬ前、「最後に何が食べたいか?」と訊かれれば、「寿司」と答える。そして最後に聴きたい歌(マイ・ラスト・ソング)は拓郎の『恋の歌』だ。
 死んだ後、無駄な葬儀は要らないが、気持ちがあるなら『ぷらいべえと』版の『恋の歌』を流して送ってもらいたいと思っている。でもそんな話を家族にはしていないから、その願いは叶わない(爆)

 


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