SUPER GAS スーパー・ガス
加藤和彦

 

 僕が初めて手にしたギターは、叔父さんから貰ったガット・ギター。小学校の5年生の時。
 その直後、たまたま遊びに来た年の離れた従姉からドレミファ…のポジションだけ習い、それでしばらくは『日の丸』だの『チューリップ』だのを得意になって弾いていた。
 もっとギターを覚えたいと、楽器店に教則本を買いに足を運ぶも、当時は『古賀政男でおぼえる初めてのギター』みたいな本しか出てなく(笑)、仕方なしにそれで『影を慕いて』だの『湯の町エレジー』だののイントロを覚えた。だから今でも『影を慕いて』や『湯の町エレジー』は弾けたりする。

 中学生になると、先輩が学校でギターを弾いていた。鉄弦を張ったフォーク・ギター。
 ずっとガット・ギターを触っていた僕は、その鉄弦のシャリシャリしたクールな音に憧れた。大体それまで、フォーク・ギターなんてものがあることすら知らなかった。

 そしてそのフォーク・ギターへの憧れを決定的にしたレコードがある。
 加藤和彦の『スーパー・ガス』('71)。

 このアルバムを買ったのは、『家をつくるなら』が入っていたから(単純明快でしょ)。
 ナショナル住宅のCMで耳にしていたこの曲を、何かのテレビ番組でフル・コーラス歌う加藤和彦を観た。
 CMでは「草の萌えるにおいのするカーペットひきたいと思うのであります」1コーラス目しか聴けないところ、「天体観測をする透明な屋根だって欲しいのであります」や「花だって咲いてるベッドが欲しいのであります」が新鮮で、「長い髪と黒い瞳キラキラ星の無口なやさしい人をお嫁さんにしたいものであります」の字余りどころかメロディまで足してしまうユニークさにやられ、すぐにこのレコードが欲しいと思ったのであります。

 決して“春のアルバム”というわけじゃないんだけど、このアルバム、いまの季節に聴くにはぴったりで、これまで春がくる度何度このレコードに針を落としてきたことだろう。

 まず、アコースティック・ギターの音がいい。シャリシャリシャリシャリしてて、ホントに小気味良い。これは拓郎が云ってた「ギブソンのJ-45の赤いやつ」かな? 全体にジェームス・テイラーの雰囲気を醸し出すアレンジで彩られてるから、その可能性は高いよね(ジェームス・テイラーはJ-50を使用)。
 とにかく、このギターの音に惹かれて、僕は親にフォーク・ギターを買ってくれとせがんだ。ギターのことなど全くわからない親は「叔父さんに貰ったギターがあるだろ」と、全く聞き入れてくれようとはしなかったが(笑)、僕はゴネにゴネた。僕が物欲しさにあんなにゴネたのは、その後30回ぐらいしかない。

 1曲目の『家をつくるなら』のイントロのペダル・ギターがほんとに素晴らしい。このアーフタクトを聴いただけで、このアルバムを買って良かった!と思う筈だ。
 「家をつくる〜なら〜♪」の「家」は、殆ど聴こえない(笑)。でもそんなこと気にならない何かが、このカントリー・ワルツにはある。追従するコーラスが“男”というのもやられた。
 そして後ろでシャリシャリ鳴るギターがいい。71年で、こんないい音で録れてるんだもんね〜。というか、アナログだからこんなにいい音なのか。

 続く『アーサー博士の人力ヒコーキ』は打って変わってマイナーで、これでもかというくらい重たい。レガートなベースもペダルも、グラムでアシッドな70年代の音を出してる。
 キーが低すぎじゃないかと思われるアタマのボーカルから、途中一転してファルセットに変わる。ミカ・バンドの前兆を感じる。

 件のジェームス・テイラーの『Sunny Skys』の伴奏を拝借した『魔法にかかった朝』。
 ストレートなコード遣いが主流だった当時のフォークにあって、このメジャー・セブンスの流麗な響きはとってもオシャレだった。
 この伸びきったようなギターの音色は、チューニングを下げてのものか。

 『せっかちと****』。曲名も歌詞も一部潰され、曲もその箇所がミュートされている。なんと歌っているかは、ご想像の通り。
 曲が始まる前に、つのだ☆ひろの笑い声が入っていたり、ドラムのスネアの音(段ボール?)が妙だったり、ワン・コードで押したり、差別用語をわざと使ったり(消したり)と、とても実験的。
 でもこの曲に限らず、このアルバムの曲はどれも、スタジオでいろいろアイデアを出しながら録っていったような楽しい手触りがある。まあこれこそがフォークルから、昨年の新生フォークルまでずっと加藤和彦が貫き通してる面白がり屋なスタイルで、そんなテイストを昨今のつまらないミュージシャンたちは見倣ってほしいところ。

 『もしも、もしも、もしも』。これは名曲だね。アコースティック・ギター2本のデュオってスタイルも最高。
 「もしも、もしも、もしも おまえがいなければ…」
 「僕はここにいてもしょうがない」「地球は四角だったろう」「太陽は西から上がってくる」
 「僕はそれ程首ったけ」
 こういうシンプルなラブ・ソングはいいなぁ。

 A面ラストは、ドノバンをプンプン彷彿とさせる『不思議な日』。ドノバンがプンプンなんだけど、旋律はとっても日本的。これがね、加藤和彦の一面でもあるんだよね。
 シングル『家をつくるなら』のカップリング曲でもある。

 B面にきて、いきなり南国トロピカルな『魔誕樹の木陰』。細野さんより先にこれをやっているところがスゴイ。
 歌っているのは何語だか知らないが、とてもキワドイ(笑)。

 続く『アルカンシェル』は、テンションを乗せたメジャー・セブンスのアルペジオが幻想的な雰囲気を出しているけど、前の『魔誕樹の木陰』からの流れで南国を意識している… ともとれなくない。ともあれ、白昼夢を見せられているようなこのゆったり感はどうだ !?

 そして『児雷也冒険譚』。
 ライナーによるとこの前のソロ・デビュー・アルバム『ぼくのそばにおいでよ』は、『児雷也』をタイトルに2枚組で発売の予定だったとか(それがレコード会社の意向で曲を削って発売)。
 ビートルズのシタールみたいな音を、変則チューニングのギターでやってるのかな? でもインドじゃなくてやっぱり日本。まさに『児雷也冒険譚』。こういう曲想は、ホント感心しちゃうよなぁ〜。さすが大先生。

 ラストはラグタイム風のインスト『スーパー・ガス』。
 こんな“粋”さをその後真似する人は多かったけど、いつでも加藤和彦は先駆け。
 こういう曲でアルバムが終わったりすると、「あ〜、ヨカッタ」って気になるんだよね〜。
 アルバムタイトルにもなっている「ガス」とは、知り合いの飼い犬だそうで。それにスーパーマンのコスチュームをコラして『スーパー・ガス』(ジャケット参照)。

 凝ったことをやりつつも、万人ウケする、、、 とにかく理想的なアルバムだ。

 このアルバムの制作過程で、セッションに参加していたミカ(当時、加藤夫人)と、つのひろさんでサディスティック・ミカ・バンドが結成される。
 ミカ・バンドについては、次回。

 


+--prev---index---next--+

 

Copyright2003 Nyanchoo

DO,DE,DA