HELP! HELP !

The Beatles

 

 ビートルズの、しかも取り立てられることのない他愛のない歌が、ふと口をつくことがある。
 このところは『It's Only Love』(笑)。
たかが恋… それだけなのに
どうしてこんな気持ちになるんだろう?
たかが恋… それだけのことだけど
君を愛するのはとてもつらい
(対訳:内田久美子)
 実はこの曲、後にジョン自身が「ずっと嫌いだった、最悪」とまで云っていて、確かにアレンジのショボさといったらないけど、この他愛のなさこそ、ジョンの“恋”に対する真骨頂なんじゃないかと、誰かに恋する度に感じさせられる次第で。
 だって、スケールの大きな相対的な“愛”ではなく、極々個人的な恋心を想う時、いつもアタマをよぎるのは『Ask Me Why 』とか『If I Fell』とか『Yes It Is』とか、そんな他愛のない歌たちなんだもん。

 というわけで、今回はアルバム『HELP!』('65)。

 ご存知のようにこのアルバムは、2作目のビートルズ主演映画のために制作(A面に映画の挿入曲、B面に新曲)された。
 邦題が『4人はアイドル』などと、『ビートルズがやってくるヤァ!ヤァ!ヤァ!』同様まったくトホホなものだが、考えてみればその“アイドル”な状況が『Help!』を産み出させたわけで。

 『Help!
 脚本の段階では『Eight Arms To Hold You』という、やはりトホホなものが用意されていたが、ジョンとポールがそれに見合った曲を作れず、ジョンがその時の心の軋みをまんま歌にしたこのロックンロール・ナンバーが起用された。
 転調後のメロディとユニゾンのコーラスによる掛け合い、これにたまらなく胸躍らされるが、私的なエモーションいっぱいの詞にショックも覚える。
 シングルとアルバムでは、ボーカルが判りやすいくらいの別テイクで、聴き比べも面白い。

 『The Night Before
 好みの問題かもしれないが、冒頭に挙げた『It's Only Love』と比べ、ポールが書く“取り立てて他愛のない曲”は、ふいに口をつくことがない。ふいに口をつくことはないんだけれど、何故かアタマから離れなくなることがある(笑)。これもそんな曲。
 Dキーに7thを随所に入れたブルージーな響き、サビでAmに転じたかと思えばGに転調。う〜ん... ポールっぽい(笑)。

 『悲しみはぶっとばせ(You've Got To Hide Your Love Away)
 なぜこんな邦題が付いているのかはわからないが(笑)、ジョンがボブ・ディランに感化されて書いたとして有名な曲。「エルビスにできることなら僕にだってできる。エバリー・ブラザースにできれば僕とポールにもできる。ディランだって同じ事」。
 曲調やサウンド的な面でそう云われているのかもしれないが、アンビヴァレントな感情表現にこそ、それまでジョンが書いてきたラブ・ソングとの違い(ディランっぽさ)が見える。

 『I Need You
 ジョージの曲。フット・ペダルを使った所謂ギターの“バイオリン奏法”が、と〜ってもたどたどしい(笑)。あれって音の立ち上げのタイミングとか、引きのスピードとか難しいんだよね、最初は。
 生ギターの音とポールのベースのコントラストがいい。

 『Another Girl
 ロカビリーなシャッフル4ビート。
 イントロなし無伴奏で「For I Have Got …♪」と入るところがかっこいい。このテの1コード押し切りを、ポールはよくやるよな〜。弱いフックもそれで引き立つ。

 『恋のアドバイス(You're Going To Lose That Girl)
 映画でこの曲を歌うシーンを観て、僕は少ないお小遣いをはたいてこのアルバムを買った(爆)。
 リード・ボーカルとコーラスのポップな掛け合い、サビの転調、そしてポールとジョージが1本のマイクでコーラスをしている姿、何もかもがキュートな曲。

 『涙の乗車券(Ticket To Ride)
 『Help!』で始まって、『悲しみはぶっとばせ』みたいな曲があって、アイドルの王道みたいな『恋のアドバイス』の曲の後に、この『涙の乗車券』があるってのがまずスゴイ(もっと云えば、そのB面に『Yesterday』なんて曲も!)。
 妙なイントロのギターに、特徴的なリンゴのドラミング、「My Baby Don't Care …♪」の摩訶不思議なエンディング(すべてポールのアイデアらしい)、何とも気になる佳曲。
 カーペンターズはデビューでこの曲をカバーしている。
 アルバム・ジャケットもあってか、映画『Help!』と云うと、この曲のシーンの印象が強い。

 『Act Naturally
 カントリーのヒット曲を、リンゴがカバー。
 リンゴはその後もこうした飄々としたナンバーを唄っているが、僕はこの『Act Naturally』が一番好き。

 『It's Only Love』

 『You Like Me Too Much
 もう一曲ジョージ。これもイントロの割にはやたらさりげないんだけど、さりげない分得している。ピアノはジョンが弾いている。

 『Tell Me What You See
 このあたり、『Act Naturally』『You Like Me Too Much』からうまく流れてくるんだけど、A面と比べると、いかにも(シングルの)B面みたいで、昔はちょっと物足りなさを感じていた。あまりに変哲ない曲で(笑)。
 でも最後のコーラスでG9からCに行くところが、転調したような錯覚を起こしてツボ。

 『夢の人(I've Just Seen A Face)
 よく云われる“カントリー風”というより、“トラッド・フォーク風”な曲。ベースを入れず、ポール、ジョン、ジョージ3人で生ギターをストローク。
 所謂“黄金の循環コード”で成っているにも拘わらず、サビのメロディの持たせ方で、ぐっと広がりのある曲に聴こえる。
 ウィングスのライブでも披露(ポールのお気に入り?)。

 『Yesterday
 確認されているだけでも2,500人以上のアーティストにカバーされた、世の中に知らない人のない名曲。
 弦楽四重奏と生ギターのみのバッキング。ギターはポール。チューニングを下げて、FキーをGで弾いている。他の3人は加わっていない。つまり、一人ビートルズ。
 ジョージ・マーティンの「ストリングスを起用した曲をやらないか?」のアイデアに、「マントヴァーニやノリー・パラマーは勘弁してくれ」と断ったポールが、イージー・リスニングにならない、ロックンロールなバラードを作り上げた。
 ただ、これほどビートルズらしくない曲が、ビートルズの代表曲となっていることには、いささかの抵抗はある。ジョンがこの曲を絶賛しながらも、「僕の書いた曲だったら… と思ったことは一度もない」と云ったように。

 『Dizzy Miss Lizzie
 ラリー・ウィリアムズの曲のカバー。ジョンは他にも『Slow Down』『Bad Boys』といったラリーのヘビイなシャウト・ナンバーをカバー。
 残念なことに、ジョンのロックンロール少年な横顔が見られるのはこのナンバーまで。以降、ビートルズがクラシック・ロックンロールをカバーすることはなかった。

 そして僕はギターを取り出し、『It's Only Love』を歌ってみる。
 こうして弾き語りでやってみると、ホントいい曲なんだって。ん?… 別に聴きたくない?(爆)

 


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