RENALDO & CLARA RENALDO & CLARA

BOB DYLAN

 

 映画『レナルド&クララ(RENALDO & CLARA)』は、《ローリング・サンダー・レビュー・ツアー》を素材にした不可思議な作品だった。
 僕は高校2年だった78年に、紅葉坂の教育文化会館で“2日間限定”みたいにして上映されたそれを観た。

 アラン・レネや、日本でも鈴木清順が撮ったような所謂「不条理映画」のような難解な映画があるが、当時の僕はそのタイプの映画は鑑賞したことがなかったし、またそんなわけのわからぬ映画があることすら知らなかった。
 そうしたタイプの映画の存在も、また『レナルド&クララ』の予備知識もなしに観たまだ無垢だった高校生は、それはそれはぶっ飛んだものだ(別に『レナルド&クララ』が「不条理映画」というわけではないが)。

 わからないのだ。

 演奏シーンはわかる(笑)。演奏されている曲も知っているものが多く、何より「動くディランが観られる」ことがただ嬉しかった。
 しかし映画の筋は、どれだけ追ってもさっぱりわからない。焦りさえ感じる。わからない。何だこりゃ。わからない。わからない。わからない。…皆はわかるのか?
 エンド・ロールが流れた時には、「遂に最後までわからなかった」という虚脱感があった。
 大袈裟ではなく、以来それがトラウマになり、しばらくの間どんな映画を観るにも「わからなかったらどうしよう」という不安がつきまとったものだ(幸か不幸か、以降そんな映画には一度もお目に掛かっていないが)。

 後で雑誌から得た情報によるとこの作品、アメリカで公開された時は4時間以上の大作(日本公開時は2時間)で、あまりのわけのわからなさに1週間で興行がうち切られたとか(爆)。当のディランもかなりへこんで2時間バージョンを作ったらしい。が、それも思い切り不評で、その苦い思いからかどうかは知らぬが、以後『レナルド&クララ』は上映は勿論、ビデオ・ソフト等で日の目を見ることもなく、「幻の映画」として語り継がれている。

 がしかし、映画の内容はさておき、『レナルド&クララ』に於けるディランは、とてつもなく恰好良かった。
 ピエロの如き白塗りの顔、花びらをあしらったカウボーイ・ハット、シルクのシャツに黒のベスト、首からスカーフを下げ、サンバーストのテレキャスターをかき鳴らすディランのポスターを、僕はずっと部屋に貼りっぱなしにしていた。
 そしてできることなら、もう一度あの『レナルド&クララ』の映像を観たいと切に願っていた(ブートで粗悪なビデオを入手したが、泣きたいくらいに画質が酷かった)。

 その『レナルド&クララ』から、『ブルーにこんがらがって(Tangled Up In Blue)』と『Isis』の演奏シーンが、CDの初回限定ボーナスDVDとして付いてきた。
 そしてそのCDこそ、27年間恋い焦がれた《ローリング・サンダー・レビュー・ツアー》を納めた『The Bootleg Series Vol.5 BOB DYLAN LIVE 1975 THE ROLLING THUNDER REVUE』だ。

 とは云っても、《ローリング・サンダー・レビュー・ツアー》は76年に『激しい雨(Hard Rain)』というアルバムでリリースされたり、そのライブ・ドキュメントがテレビで放映もされていて、別に闇に包まれていたわけではない。
 その模様を当時テレビで観た中3の僕は、何か特別な匂いを嗅ぎ取っていた。

 これはあくまでも個人的見解だが、デビューから今日までずっとつかみどころのない変化をし続けるディランに於いて、アルバム『欲望(Desire)』('76)(或いは次の『武道館』)で僕の中のディランはひと区切り付いている(細かく分けるとその前の67年あたりでもひとつの区切りがあるんだけど)。
 というのも、次の『Slow Train Coming』('79)。これがね〜、あまり好きではないんだわ。続く『Saved』('80)も『Shot of Love』('81)も。
  勿論その後にも、『Oh Mercy』('89)『Under the Red Sky』('90)『Love And Theft』('01)という大好きな名盤もあるんだけど、声が違う。ここ十年くらいの衰えで枯れた声の味わいもいいが、やはり若い頃の声は何物にも代えられない。
 そういう意味では、《ローリング・サンダー・レビュー・ツアー》のディランは『John Wesley Harding 』('67)年以降の活動の中では、ムラっ気がもたらしたピーク… というか、落ち着き払っていた《武道館》と比較しても、最高のテンションを見せてくれている。それはディランのロックンロール魂と云ってもいい。
 60年代のディランもスゴイが、『偉大なる復活(Before The Flood)』('74)、『Planet Waves』('74)、『血の轍(Blood On the Tracks)』、『欲望』の流れも、まったく別の様相でスゴイのだ。
 そしてそのスゴさというのは、時代を超えて耳に届いた現在でも、色褪せることなく聴き手の心を震わせるスゴさだ。

 ディランを語る時、いつでもその詞の面ばかりが評されるが(音楽的には取るに足らないと思っている向きも中にはある)、このライブに於けるグルーブ、ほとばしり、何物も圧倒してしまう強さがある。云うまでもなく、ディランの音楽は最強だ。

 初回特典の『ブルーにこんがらがって』の映像、『レナルド&クララ』を切望していたという理由を抜きにしても、観る者をノックアウトさせるのではないだろうか。
 僕などは、延々顔のアップしかない?なカメラでありながら、昇天させられた(爆)

 こんな閉塞した時代の空気を吹き飛ばしてくれる全く色褪せていない27年前の演奏、今年一年を占う意味でも、お正月に聴くにはぴったりのお薦め(断然)です。

 


+--prev---index---next--+

 

Copyright2003 Nyanchoo

DO,DE,DA