McCartney McCartney
Paul McCartney

 

 ジョンとポールの決定的な違いは、ジョンが常に自分をさらけ出すような歌を作り続けたのに対し、ポールの歌は(たとえ内面 を象った詞であったとしても)歌のための歌を創作している点じゃないだろうか。
 ポールは歌の世界を描く。その構想は無邪気で幅広い。架空のバンドをコンセプトに作ってみたり、反則切符を切る婦警や医学専攻の学生のハンマーを歌にしてみたり。そこへ行くと、ジョンの歌は吐露であり、しばしジョン自身と重なり合う。
 故にジョンには、彼の歌を心の支えにしたり自身を投影したりするシンパが多いが、ポールのファンにそうした入れ込み方をしている者は少ない。

 ジョンがソロになって作ったアルバム『ジョンの魂』は、まさにそうした痛いくらいのジョンの想いで埋まっている。
 一方ポールはソロになっても一貫して上質なエンターテイメントを提供すべく、多くの人に受け入れられるヒット・ソングを生み出していった。
 どちらもジョンらしく、ポールらしい歩み方だった。
 が、ポールにも『ジョンの魂』のような、自分の素顔を見せたアルバムがある。ビートルズの解散に当てて作られた最初のソロ・アルバム『McCartney』。

 アルバム『McCartney』は、ビートルズの解散劇を抜きに語れない。
 69年、もうビートルズの4人それぞれの心は離れ、修復が難しい状況にあった。映画『Let It Be』に観られる通りだ。
 しかしポールはもう一度グループを立て直すべく、昔のように楽しく熱く音楽を作ろうと他のメンバーに呼びかけた。『The Long And Winding Road』なんて歌まで作った。『Get Back』と叫んだ。それに対しジョンは、
 「アタマがおかしいんじゃないか? オレはグループを退めたいと思ってるんだよ。シンシアと離婚したみたいに」
 とけんもほろろ。

 ジョンの言葉にショックを受けたポールは、農場ハイドパークに引きこもった。そして考えあぐね、悩み抜いた末、ひとりでアルバムを作ることを決心する。

 レコーディングは主にポールのスコットランドの自宅で、秘密裡に行われた。機材は4チャンネルのMTRと、マイクが1本。
 ドラム、ベース、ギター、ピアノ、オルガン、メロトロン… 全てのパートをポールがひとりでこなした。リンダがコーラスや効果 音を手伝った。
 かすかにドアの音や子供たちの声も聞こえる、決して録音状態の良いデキではなかった。
 ジャケットもリンダの撮った写真を使い、アートワークも2人で行った。
 ポールは、リンダと2人でやっていける確信を得る。

 そうして完成したアルバム『McCartney』をポールは、既に発売が決まっていたビートルズの『Let It Be』とリンゴのソロより先に発売しようとする。紆余曲折はあったが、リンゴの『Sentimental Journey』、ポールの『McCartney』、そして『Let It Be』の順でリリースされることに。

 そしてポールはビートルズの脱退を表明。ジョンにとっては青天の霹靂に違いなかったが、おかげでアルバム『McCartney』は、米ビルボードでは3週連続1位 に。しかし本国イギリスでは2位止まり。トップの座を阻んだのは、『Let It Be』だった。

 好調なセールスとは裏腹に、『McCartney』の音楽的評価は全く芳しくなかった。
 「貧弱」「完成度が低い」「解散に併せて追っつけで作った印象」「ちゃち」「ポールの慢心」。
 あまりに酷評されたせいか、はたまたコマーシャル性のない曲が並んでいるせいか、プライベートな曲と自分で位 置付けているせいか、ウイングス時代のライブで、アルバム『McCartney』の収録曲が演奏されることは殆ど無かった。ベスト・アルバムに選曲されることもなかった。

 僕は個人的にこの『McCartney』が大好きだ。
 まずこのアルバムには、デモ・テープの勢いがある。バンド等の音楽経験がある人は誰もが覚えがあるだろうが、きちんとスタジオで録ったテイクより、自宅でひとり多重録音で残したデモ・テープの方がデキがよく感じたりする。音楽はクォリティ云々じゃない気がする。それに似た手触りが、この『McCartney』にはある。
 そして、収録曲が他のポールの作品とは一線を画している。アルバムからは苦悩や淋しさ、そして愛や安らぎを求める、どこか無防備な面 もちがある。

 「どしゃ降りの中できみと会うなんて、それはとっても素敵なこと」と、この頃の心情を歌う『きっと何かが待っている(That Would Be Something)』。作りかけのようにすら思えるラフな仕上がり。

 「僕は起きあがりたいとも思わない。でも今夜だけはきみとふたりで夜を過ごしたい」と歌う『Every Night』は、ブルージーでどこかポールらしい甘い(しかし変哲もない)メロディが、コードの付け方で複雑な味わいを見せる曲に変貌することを示したシンプルなのに心に残る歌。

 インスト・ナンバーが多い本作の中、キャッチーな明るさが心地よい『Hot As Sun』は、ビートルズのハンブルグ時代の『Cry For A Shadow』を思わせる佳曲。ポール10代の頃の作品らしい(『Get Back』セッションでも演奏)。

 B♭で始まりCで終わり、フックはDからB♭、Em、A7と強引な転調をしながら、転調を感じさせない斬新な『恋することのもどかしさ(Maybe I'm Amazed)』は、ポール渾身の1曲。72年以降のウイングスのツアーでも演奏し、ライブ・バージョンがシングル・ヒットしている。

 そして珠玉の名曲『Jumk』。
 アコースティック・ギターは限りない悲しみをたたえ、訥々とした歌は涙が出るほど淋しい。そしてその詞は様々な解釈ができるが、きっと全ての淋しい人の心を打つだろう。

 一聴しただけでは、確かに酷評されても仕方のない取るに足らないアルバムかもしれない。大衆的なポップ・ミュージックを基幹としてきたポールであれば、殊更批判が集まったのも無理のないこと。
 しかしそこにも確かにポールの才気が見え隠れしていて、そしていつもは見せない壊れそうな姿がいとおしく感じて仕方なかったりする。

 ロックンローラー道を貫き通し、早くに凶弾に倒れたジョンと比較し、コマーシャルなキャンディ・ポップを書きなぐり、ライブではビートルズ・ソングを臆面 もなく歌うポールに、一部のファンや評論家からの批判は尽きない。
 しかしメロディ・メーカーとしての才能を枯渇させず、常に第一線で活躍してきたポールをどうして批判できよう。

 ヒット・パレード的楽しさ満載の今回のツアーの後、今更ながらに『McCartney』を聴いて、つくづく感じた。

 


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