HOSONO HOUSE 恋は桃色
作詞・作曲 細野晴臣

細野晴臣

 

 YMOに人生を変えられなかった僕も、『HOSONO HOUSE』にはどっぷりと浸かった。
 そしてはっぴいえんどやYMOが伝説化・神格化されるにつけ、僕は逃げ込むように『HOSONO HOUSE 』をターン・テーブルに載せてきた。

 細野晴臣を語ろうとすると、どうしても『目くらの象』の話のようになってしまう。
 ある者はテクノの人だと云い、ある者は日本のロックを確立した人だと云う。ある者は無国籍な音楽をごったに演ってる人だと云い、ある者はアイドル・ヒットの作曲家だと云い、ある者はアンビエントの人だと云い、ある者は『スター・ウォーズ』のヨーダだと云う…。

 思いつくまま気が向くままにいろんなことに手を広げる輩は大勢いるが、そのどれもをハイレベルに昇華できる力量 のある人は極々少ない。
 彼の音楽に対する興味や好奇心は尽きることなく(それとも厭きやすいのか?(笑))、その上それが流行に踊らされているのではなく、細野晴臣の心からの欲求(開放?)としての結果 なところが、彼のアーティストたるところなんだろう。多分。
 そして聴き手は常に新鮮に驚かされ続ける。

 はっぴいえんど解散の後、『トロピカル・ダンディー』('75)『泰安洋行』('76)『はらいそ』('78)といった、エキゾチックで音楽性豊かなアルバムが発表される前に、あまりにも無防備でシンプルな『HOSONO HOUSE』('73)は作らた。
 大瀧詠一が福生の自宅でレコーディングしたように、細野は狭山の自宅に機材を持ち込んでこのアルバムを録音した。だからというわけではないが、このアルバムは“私家盤”の匂いがする。
 バッキングは、鈴木茂、林立夫、松任谷正隆に細野を加えた、後にキャラメル・ママと名付けられる、バンド形態にこだわらないスタジオ・ワーカーたち。

 「泣かないでさ これからは ダイナ 君といつも一緒だよ♪」
 ギター一本で訥々と歌われる『ろっか・ばい・まい・べいびい』。アメリカの大衆音楽で育ったその音楽性を意図的に示したようなメロディ。そこにはYMOで世界制覇をする細野晴臣はいない。
 なんてじんとする歌なんだろう。。。

 「ひなたぼっこでもしていきませんか♪」(『僕は一寸』)「今では僕は田舎者♪」(『冬越え』)といった、ザ・バンドのような土の匂いをさせながら、柔らかな手触りのある歌。

 「窓から招き入れると 笑いながら入り込んできて 暗い顔を紅く染める それで救われる気持ち 今頃は終りの季節 つぶやく言葉は さようなら♪」
 あまりにパーソナルで、こちらの気持ちが救われる『終りの季節』。

 林立夫の歯切れの良いハイハットとスネアの絶妙なタイミングに、細野のメロディアスなベースが絡んで、独特のグルーヴを生んでいる『パーティー』『Choo Choo ガタゴト』。

 このアルバムの魅力は、どの音からも小確幸が聴こえてくることだ。和やかなことだ。
 誰だったかが細野晴臣の弾くベースを「曲の中に陽だまりを描き出している」と評していたが、まさにぴったり。

 そして『恋は桃色』。
おまえの中で 雨が降れば
僕は傘を閉じて濡れていけるかな
雨の香りこの黴のくさみ
空は鼠色 恋は桃色
 こんなにやさしいラブ・ソングを、僕はほかに知らない。
 ジェームス・テイラーを彷彿とさせるサウンドだが、後にも先にもここでしか吐露していない細野の照れくさい愛情あふれるこの詞が、誰にも真似できないあたたかい眼差しを持っている。
 ひとりのひとを想い続ける力が、この歌にはある。

 流行と共に、或いは流行に肩すかしをくわせながら変化し続ける細野晴臣だが、どれだけ目指すものやスタイルが変わっても、細野晴臣は細野晴臣の積み重ねになっている …と僕は思う。
 それは、彼の書く曲のニュアンスだ。

 彼が書き続ける曲のニュアンスにいまでも、『恋は桃色』一度きりの男らしさ、やさしさが、見えてならない。
 『HOSONO HOUSE』から、「その後の細野晴臣の展開が予感できる」と云う人がいるが、そうじゃない。『HOSONO HOUSE 』の上に、その後の細野晴臣が積み重なっているのだ。
 そして薄っぺらにはっぴいえんどを語るよりも、そこを見る方が僕には大事だったりする。

 昨今、“癒し系”というそれだけで人の気持ちを逆撫でするような括りがあるが、細野晴臣の音楽には、たとえそれが激しいリズムであっても、聴く側を癒してくれるニュアンスがある。それがYMOであっても、『S-F-X』であっても、『PARADISE VIEW』であっても、HISであっても、『源氏物語』であっても、TIN PAN ALLEYであっても。

 だからどんな風にカタチを変えても、僕は細野晴臣を追ってしまう。

 


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