平野愛子 港が見える丘
作詞・作曲 東辰三

平野愛子

 

 平野愛子の『港が見える丘』は、何度聴いても唸ってしまう。
あなたと二人で来た丘は
港が見える丘
色あせた桜ただ一つ
淋しく咲いていた
 切なく胸を締め付けるイントロに導き出されるこの歌詞と、何ともけだるい歌い方。もうここまでだけでも、この歌は満点を獲得している。
船の汽笛 むせび泣けば
チラリホラリと花びら
あなたと私にふりかかる
春の午後でした
 想いと陽射しと幸福と予感と… 淡々とした独特のロマンティックさをたくわえたメロディと詞と歌唱に、そんな多くが詰まっていて、聴いてるこっちがこみ上げてきてしまう(笑)

 そしてその予感は当る…。
あなたと別れたあの夜は
港が暗い夜
青白い灯りただ一つ
桜を照らしてた
船の汽笛 むせび泣けば
チラリホラリと花びら
涙の雫にきらめいた
霧の夜でした
 続く間奏の、何とうら寂しいことか。

 僕は横浜の港が見える丘公園が好きだ。
 この歌はその公園が舞台… というわけではなくて、昭和22年のビクター戦後第1号のレコード『港が見える丘』のヒットにあやかって、後から公園が作られている(実は神戸がこの歌の舞台である… という説もある)。
 しかしなる程、この歌の背景と云っても良いようなロケーションで、港を見下ろすその公園に若い頃はよくデートで訪れた。そしてその時いつもこの歌がアタマの中で鳴っていたが、そのことは彼女には話さなかった。

 その彼女とは歌のように別れてしまったが、別れた後、好きだった相手を想う気持ちとはどんなものだろう。
 事情が二人を引き裂いた、それともただ単にフラレた… シチュエーションは違っても、心に相手が残っているうちは、ほんとうに、ほんとうに切なく苦しいものだ。
 この歌について考えれば、時代的に戦争で逝った恋人を、思い出の場所で偲ぶ歌… ということだろうか。
あなたを想うて来る丘は
港が見える丘
葉桜をソヨロ訪れる
潮風浜の風
船の汽笛 遠く聞いて
うつらとろりと見る夢
あなたの口許あの笑顔
淡い夢でした
 なんと健気で、いとおしい姿だろう。
 そして短い後奏に、言葉では云い表せないような寂寥感が漂っている。曲全体を支えているメジャー・コードのモダンな4ビートが、日本の演歌の湿っぽさと一線を画しているが、それがよけいに茫然とした悲しみを伝えている。

 平野愛子にはもう1曲『君待てども』(昭和23年)という、やはりロマンティックな名曲がある。『港が見える丘』と『君待てども』は、日本の歌謡史で双璧をなす永遠の名曲だろう。
 そして両曲とも作詞・作曲をしているのが東辰三氏。作詞家山上路夫氏の御尊父である。

 その東辰三氏。まさに天才と呼ぶにふさわしいこれだけの名曲を残していながら、一般 的には知名度が低い。それにこの2曲意外にクレジットで名前を目にすることがない(『港が見える丘』のB面 に置かれた竹山逸郎の『泪の乾杯』という歌が東辰三の作詞・作曲で、やはり名曲)。
 ネットで検索し、「お〜たまじゃくしは かえる〜のこ〜♪」の作詞者(今川一彦氏との連名)であることが判った(笑)
 それにしても残っている楽曲が少ない。件の2曲を聴いただけでも、その実力は並々ならぬ ことがわかるのに…

 気になって調べてみると、早く(昭和25年)にお亡くなりになっていた。。。(スタジオで急逝とある)
 文字通り「天才は早死に」してしまったのかもしれないが、もし永い作曲活動を続けられたなら、服部良一に勝るとも劣らない、日本を代表するコンポーザーの一人になっていたに違いない。

 


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