卒業 卒業
作詞:松本隆 作曲:筒美京平

斉藤由貴

 

 柴門ふみの漫画に登場する女性は皆頭がイイ。自分のバカさ加減を呪う女も出ては来るが、きちんとそのバカさが自己分析できていて、その実とても頭脳明晰だったりする。
 そうした達観の仕方が(たとえどうしようもないくらいに取り乱していても)とてもクールで、結局それは柴門ふみ自身が俯瞰して作品を描いているからにほかならないのだが、現実の世界でそんな女性に会ったことは、僕はない。

 頭の良い女性がいないわけではない。圧倒的に少ないが(笑)、おそろしく頭の良い女性というのは存在し、巡り会ったこともある。その中の何人かにはとても魅かれた。
 しかし彼女達は皆とてもやさしく、柴門ふみの漫画に登場する女性のような外側からの物言いは決してしない。腹の中では見下していたのかもしれないが、真実に頭の良い女性というのは、社交性にも長けている。

 つまりは、ああしたクールな女性はやはり漫画やドラマの中だけのものなのだ。生身の人間に向かって正論を唱えるのは勇気が要ることだし、本音だけではつきあえないことを人は人生経験の中で学ぶからだ。
 だからこそ柴門ふみは、漫画の登場人物の口を借りて、現実にはぶちまけられない本音を語らせているのだろう。
離れても電話するよと
小指差し出して言うけど
守れそうにない約束は
しない方がいい ごめんね
 詞のこの部分だけを切り取ると、あまりにもクールだ。ハッとするような本音。実際こんなことを口に出して云えるだろうか?

 斉藤由貴のデビュー曲『卒業』が異色のアイドル歌謡の体裁を感じさせるのは、この歌詞全編に流れる“頭の良い女子学生”の俯瞰した主観のせいだ。

 制服の胸のボタンを下級生にねだられる男子(彼氏?)に対し、「ほんとは嬉しいくせして」と冷ややかなことを云い、彼が机にイニシャルを彫ったことに対し「想い出を刻むのは心だけにして」とつぶやく。
 そして卒業式で泣かない理由を「もっと哀しい瞬間に涙はとっておきたい」と締めくくる。

 斉藤由貴が講談社の《ミス少年マガジン・コンテスト》でグランプリを獲得し、レコード・デビューと相成った際、ちょうど彼女が高校を卒業することから「“卒業”をテーマに」とこの曲は発注された。
 松本隆は以前松田聖子に書いた『制服』以上の詞が書けるか、戸惑ったという。
 そうして出来上がった詞に、筒美京平が曲を付ける… といった所謂“詞先”で作業は進められた。
 松本隆が書く長い詞に後から筒美京平が曲を付ける場合、淡々としたメロディになる傾向があるように思える。『木綿のハンカチーフ』がそうだったように。
 メジャー・メロディで淡々と続くこの歌には、マイナー・キイのような哀愁があって、主人公の女生徒の達観した鼻持ちならなさを、それが“卒業”することからくる哀しみだけじゃないことを伝えてくれ、斉藤由貴のルックスと相まって、切ない愛おしさを感じさせた。
 武部聡志のアレンジも、80年代歌謡曲に見られる安普請なデジタルの音をアコースティックなサウンドでうまく調理して、この歌を希代の名曲にする大きな役割を果 たしている。

 そして誰にもあるような、
席順が変わり あなたの
隣の娘にさえ妬いたわ
といった思い出や、
駅までの遠い道のりを
はじめて黙って歩いたね
反対のホームに 立つ二人
時の電車がいま引き裂いた
という、高校生というその大事な時期にしか得られない、そしてその時はないがしろにしていた感慨に、この歌を聴くたび、永遠に胸をしめつけられるような気さえする。
でも 過ぎる季節に流されて
逢えないことも知っている
 惜別ってそんなものなんだと、僕は卒業式の日には知らないでいた。 <その分オトコは子供なのかな…。

 


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