駄目な僕 駄目な僕

Brian Wilson

 

 60年代初頭、ビーチボーイズの中心メンバーとしてブライアン・ウィルソンはデビューした。以来“海”と“クルマ”と“女の子”をテーマに、カラっと晴れ上がるようなサーフ・ミュージックでヒットを連発。一躍ビーチボーイズはアメリカのアイドルに。しかしその実、メンバーでサーフィンができるのは1人しかいなかった。

 楽しい音楽ファミリーに傍目からは見えたビーチボーイズだが、マネージャー役の父が執拗にヒット曲を生み出すようブライアンにプレッシャーをかけ続け、ブライアンは徐々に精神のバランスを崩し始める。

 64年、ビートルズ旋風がアメリカに上陸、ビーチボーイズはビートルズとヒットチャート上で凌ぎを削り合うようになる。
 このライバル関係がブライアンに刺激を与え、素晴らしい作品を次々と生み出す原動力となるのだが、同時にブライアンには更なるプレッシャーともなった。
 ツアーに向かう飛行機の中でブライアンは、ツアーを続けたくないと泣き叫び、以降彼はコンサート活動から引退、レコーディングのみを通 じてビーチボーイズの活動を続けることになる(ステージでの彼の代役としてグレン・キャンベル、後にブルース・ジョンストンが加入)。

 ステージを降りたとは云っても、創作意欲の尽きることがなかったブライアンは、アルバム『サマー・デイズ(SUMMER DAYS)』('65)を制作。それまで背負っていたサーフィン・ミュージックのイメージから脱却しようとした。
 そうしたところにビートルズが『ラバー・ソウル』を発表。これを聴いたブライアンはショックを受け、トータル・アルバムを作ることを思い立つ。

 これまでとは違った内省的歌詞を得る為、コピー・ライターのトニー・アッシャーを作詞家に迎え、半年以上スタジオにこもり、完成したアルバムが後に名盤と語り継がれる『ペット・サウンズ(PET SOUNDS)』だ。
 ボーカル・トラックの録音のみを残し、ブライアンは他のメンバーたちがツアーから帰って来るのを待っていたが、それまでに聴いたこともないようなサウンドを聴かされたマイク・ラブが猛反発した。「誰がこんなレコードを聴くんだ? 犬か?」

 現在でこそ評価の高い『ペット・サウンズ』も当時は、レコード会社からは文句を云われ、メンバーからはそっぽを向かれ、ファンは離れ、惨々だった。が、ポール・マッカートニーはショックを受けた。そうして練られたアルバムが『サージェント・ペパーズ』だと云われている。

 『ペット・サウンズ』がコケたことにもめげず、ブライアンはより密度の濃い、かつより美しい音楽を求め、新しいアルバム制作に着手した。『スマイル(SMILE)』。
 ところが激しい軋轢の中、過度のストレスに見舞われたブライアンの精神は、とうとう壊れてしまう。アルバム『スマイル』は日の目を見ることなく、ブライアンは廃人同様の状態に。

 『スマイル』の挫折から20年以上の歳月を経て、88年、ブライアン・ウィルソン初のソロ・アルバム『ブライアン・ウィルソン(BRIAN WILSON)』がリリースされた。
 僕が初めてリアル・タイムで聴くこの新譜には、ビーチボーイズ時代の歌声は見る陰もなかったが、シンプルで無垢なメロディに、打ち震えるような感動を覚えた。そしてそのイノセントな声が、胸を締め付けた。

 また時をおいて、95年にブライアンのドキュメンタリ・フィルムのサントラとして、ソロ第2弾『駄 目な僕(I JUST WASN'T MADE FOR THESE TIMES)』がリリース。
 過去の作品のセルフ・カバー集で、2人の娘カーニーとウェンディのコーラスで唄う『Do It Again』等、いきいきとした聴き処もあるが、僕が衝撃を受けたのは前作『ブライアン・ウィルソン』に収められていた『Love And Mercy』。痛々しさすら感じるその声から、愛のなんたるか、挫折のなんたるか、生きることのなんたるかが溢れ出していた。
 支持する人は少なそうだけど、僕はこのアルバムがとても好きだ。

 95年には『スマイル』でコンビを組んでいたヴァンダイクパークスとのコラボレーションアルバム『ORANGE CRATE ART (with VAN DYKE PARKS)』を発表。

 そして98年、3枚目のソロ・アルバム『イマジネーション(IMAGINATION)』を発表。充実した仕上がりもさることながら、あれからステージ上に立つことさえなかったブライアンが、積極的にライブを行うようになった。
 翌99年には、待望の日本公演も。

 この日本公演が良かった。本当に良かった。

 ビーチボーイズのヒット曲、それから『ペット・サウンズ』からの曲、それにソロ・アルバムからの曲、どれも同じ目線で聴ける構成が素晴らしい。

 『Don't Worry Baby』の時には、正直ちょっとウルっときた。意外な『Kiss Me Baby』、それに聴き慣れ過ぎた感すらある大ヒット曲『I Get Around』も、こうして聴いてみるとホント天才ならではの楽曲だよなぁ〜…と、『ペット・サウンズ』ばかりがもてはやされ、ないがしろにされがちな初期のヒット曲の神髄を、あらためて思い知らされた。『SURFIN USA』に至っては、踊ってたよ、ブライアン(笑)。
 ラストは、ブライアン自身最も好きだというロネッツの『Be My Baby』。この歌へのオマージュでブライアンは『Don't Worry Baby』を書いたそうな。

 アンコールは『ペット・サウンズ』から『Caroline No』。もう決して上手くないそのボーカルには表情があった。なんて美しいメロディなんだろう。

 ただ、僕が待っていた歌が無かった。愛のなんたるか、挫折のなんたるか、生きることのなんたるかが宿った『Love And Mercy』。
 実は公演前、僕はネットで米・欧を回った時の曲目をチェックしていた。米・欧では途中にきっちり『Love And Mercy』が演奏されていて、とても楽しみにしていたのだ。
 あきらめかけたその時…

 ピアノを主体としたシンプルなバッキングで、厳かに『Love And Mercy』が始まった。最後の最後のプログラムだった。
 背中が震え、大粒の熱い涙が落ちた。

 このコンサートの感動をもう一度!みたいなアルバムがある。2000年、ロキシー・シアターで催されたライヴが2枚組のCDで出ている。『LIVE AT THE ROXY THEATRE』。
 ただこのアルバム、ブライアン・ウィルソンのオフィシャル・サイトのみで通信販売されている限定盤で、なかなか入手が困難。僕は何故か日本で購入したけど(笑)、選曲は良いし、音もクリアだし、文句なしの逸品。

 そして来週からいよいよ始まるブライアン・ウィルソン2度目のソロ来日公演は、『ペット・サウンズ』の収録曲を全部1曲目からラストまで、曲順もそのままにステージ上で再現するという夢のコンサートだそうで、否が応でも期待が膨らむ。

 


+--prev---index---next--+

 

Copyright2002 Nyanchoo

DO,DE,DA