ライブ泉谷 ライブ !! 泉谷/王様たちの夜

泉谷しげる

 

 人はどんな事情で里帰りをするのだろう。
 『里帰り』って歌は、歌詞のどこにも“里帰り”って言葉は出てこないんだけど、里帰りなんだな、これが。
うららかな春の陽射しは
待ちわびた顔に照りつける
前のことは洗い流せと
思い出に塗り替える
 大学の時の友人Sは、福島県はいわき市の出身。僕の友達で北海道は苫小牧出身のKさんと、泉岳寺のアパートで同棲を始め1年程が過ぎたある日、相談があると横浜の僕の家まで訪ねてきた。でも彼はなかなかその話を切り出さないでいた。
 僕らは僕が通っていた近所のスポーツ・クラブに一緒に出掛け、プールでひと泳ぎ。サウナで汗を絞り出している時に漸くSは重たい口を開いた。
 「おれ、Kと別れようと思う」
 「…そか」
 話し始めるとSは、堰を切ったように彼女の愚痴ともつかぬ二人のいざこざを捲し立てた。僕は二人は卒業後は結婚するものだと思っていたので意外だったが、二人にしかわからない事情があるのが男と女だ。
 ウチに泊まって行けという僕の誘いを断って、その夕方Sは彼女の待つアパートへ帰った。そしてその晩…

 その晩遅くにSから電話がきた。
 「いま福島の実家だ。Kに振られた」

 電話でSは泣きじゃくった。僕はその泣き声を聞きながら、不思議な気持ちでいた。
 ついさっきまで一緒にプールで泳ぎ、サウナで話をしていた男がその後、僕がごろごろ家でビールを飲んだりテレビを観て笑っている間に、彼女に別 れ話を持ち出すつもりが逆に先に別れを告げられ、傷心列車に乗っていまは福島にいる…
風は歌いささやく
昨日と変わらぬ景色が
去年と違う思い出をつくり
明日もはりきれと

そうかい 振られたかい
それはとてもきついことだね
ひと雨きそうな雲行きだね
雨宿りに寄っていくかい
 僕には帰る“故郷”と呼べる場所がないので、里帰りというものが果たしてどういうものなのかはわからないが、その理由のひとつに“傷心”があるということは想像がつく。
 Sは一目散に故郷へ走った。それは彼の本能が導いたのかもしれない。
暖かな日がくれば
またひとつ年をとってく
忘れたいことも山程あるし
忘れたくないことも多い
 この『里帰り』という歌は詞のぬくもり、旋律の美しさ、聴けば聴くほどに名曲だと思う。特に『ライブ !! 泉谷/王様たちの夜』に於けるテイクは奇跡に近いくらいに完璧だ。

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 期待に応えるってのは、そりゃあ本人にとっては非常にシンドイことで、そのプレッシャーがバネになって期待以上の結果 をもたらすこともあれば、その逆もあるわけで、まあ大抵の場合は“その逆”の方のケース。

 74年、小室等、吉田拓郎、井上陽水、泉谷しげるの4人によって鳴り物入りで設立されたフォーライフレコードのトップ・バッターとして泉谷は打席に立った。
 昇り竜の如くの勢いの4人だったから、ファンの熱い期待もピークに達していたし、敵対視している業界の目や、羨望の同業者の妬みも相当なものだった筈。

 結果として第2弾の小室等の『愛よこんにちは』、続く井上陽水の『青空ひとりきり』、トリをとった吉田拓郎の『となりの町のお嬢さん』は、セールス的な面 はそこそこの成果を残したにせよ、作品の質としては物足りなさを感じる。と云うか、やはり気負い負けしているのが否めない。「ヒットを出さなければ」というプレッシャーのもと作られた苦悩がありありと出ている。
 陽水のアルバム『招待状のないショー』には、ポリドールで一世を風靡した勢いは無かった(このアルバムはこのアルバムで、いま聴くと名作なのだが)し、拓郎のアルバム『明日に向って走れ』も、プライベートなごたごたを反映した曲が並んで、CBSソニーに残した3枚のアルバム程の“アイデアの斬新さ”に欠けていた。

 しかしそんな渦中にあって、泉谷のシングル『寒い国から来た手紙』と、アルバム『ライブ !! 泉谷』は、フォーライフ第1弾を飾るにふさわしい素晴らしいものだった。
 飄々と見える泉谷のこと、プレッシャーもさほどなく、素のまま出したらこんなもんができました… といった風に見せてはいるが、本当にそんな無神経なオトコだったら後にあんなにハゲはしない(笑)。そしてあれだけハゲる程デリケートなオトコだからこそ書けた曲が、このアルバムには詰まっている。

 『ライブ !! 泉谷』は、曲のラインナップとしては、ベスト盤的な構成になっている。エレック時代にレコーディングした作品を演奏した実況からのセレクト。そういう意味では冒頭のように新作に挑んだ他の3人と比べるのは公平ではないかもしれないが、このライヴがまた良い出来なのだ。
 アレンジはエレックのアルバムに収められているものとはガラッと変わり、歌唱そのものも安易なフェイクとは違った変化を見せている。オリジナルの印象の強い歌は、アレンジを変えることで死んでしまうケースも多々あるが、このアルバムではどれも新鮮で、ハイレベルな成功を見せている。
 それを実現させたバッキングはイエローとラスト・ショー。

 オープニングを飾る新曲『寒い国から来た手紙』がまずいい。
冬の国から都の隅へ便りが届く
壊れた夢にしがみつかずに 早く帰れと
 この歌は、《ミュージックフェア》で歌ったのが印象に残っている。また《セブンスターショー》で、拓郎が拓郎節で歌ったのも良かった。こうせつも後にフォークソングばかりを集めたアルバムでカバーしている。兎に角いい歌だ。

 A面の『寒い国から来た手紙』『遥かなる人』『懐かしい人』『里帰り』『春夏秋冬』の流れは特に絶品。泉谷の代表曲とも云える『春夏秋冬』は、このアルバムがベスト・バージョンだろう。
 B面のベスト盤的選曲も、本来の泉谷からするとナイーブなアレンジになっているが、“粗暴”な面 ばかりが表立ってる泉谷の本質的なところが見えるようで興味深い。
 C面は弾き語りが多く、詞の良さが前面に出ている。「語るに落ちる」ということで、ライブ盤でありながらMCは殆どカットされているが、『乱・乱・乱』のウケようは、いま聴いても笑える。『ひとりあるき』の繊細さもグッとくる。
 『眠れない夜』『ブルースを唄わないで』が聴けるD面では泉谷のロッカーとしてのカッコ良さが出ていて(というか、このライブが所謂“カッコイイ”泉谷の見納め(笑))、アルバムを聴き終えた後、充分な満足感を味わえる。
 ジャケット・デザインは遠藤賢司。

 この後泉谷は『家族』『イーストからの熱い風』『光石の巨人』という、日本の音楽史上に残る(残ってないか?(笑))歴史的名盤を発表し、フォーライフを去る。

 『家族』『イーストからの熱い風』については、またあらためてレビューを書きたいと思っているが、現在お茶の間で知られている泉谷しげるからは想像もつかない“アーティストとしてのかけがえのない素質”が、このあたりのアルバムで窺い知ることができる。

 そして2001年この冬、フォーライフレコードはひとつの幕を下ろした。

 


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