星空 星空
作詞・佐藤博 作曲・F.D.Marchetti

佐藤GWAN博

 

 32歳になる年に僕は8年間勤めた会社を辞めてフリーになった。
 云いたいことが山ほどあるだろうカミさんは何も云わなかった。僕の母親も何も云わなかった。カミさんの実家からは「食べていけるのか?」と心配とも嫌味ともつかぬ ことを云われた。
 僕がその時こっそりと心に誓ったことは、「兎に角、40歳までは一生懸命やろう。がむしゃらになりふりかまわず、汗水流そう」。
 そして僕は今年40歳を迎えた。

 その間子どもも生まれ、がむしゃらに働かざるを得なくなった事情もあるが、一生懸命やったように自分では思う。文字通 り馬車馬のように走り、自分のことはいっぱい我慢した。
 勿論、一生懸命やったことがすべて良いことに結びつくわけじゃなく、結果とてもツライ思いをしたことも、それこそ死んでしまいたいくらいにツライ思いをしたこともあった。
 いや、良いことの方がうんと少なかった。

 佐藤GWAN博のアルバム『星空』を聴いていると、ホッとする。が、ホッとしながらも自分が歩んできた道が間違いだったんじゃないかと、切ない不安もよぎったりする。

 僕は肩にチカラを入れすぎていたのかな…。でもチカラを緩めると全てを失ってしまいそうで、いや実際、チカラなんか緩められるような状況じゃなかったんだけど、チカラを入れないところにも“確かなもの”はあるって、佐藤GWAN博の歌たちは教えてくれる。
雪の野原を
ぼっこぼっこ
歩いてゆくよ
河童の親子
川で凍ったお月さま
大事に運んでゆくところ
〜『河童
 この「♪ぼっこぼっこ」の詞とメロディがあまりに温かすぎて、自分じゃよかれと思ってやっていたことが、どれだけ多くのものを失わせていたのかを思い知らされた。

 鯨はどうやって眠るんだろうか素朴な疑問を投げかける歌(『鯨の眠り方』)では、同じような素朴な疑問として、
あんたはどうやって
眠るんだろうか
先の人生におびえ
おののきながら?
 と、意識して気にすまいと遠ざけていたところを刺されてしまった。
ボートをください
飛べない私に
かじかんだ体にに似せ
心まで冷めぬ間に
言葉まで冷めぬ間に
〜『時の川
 もしかしたら佐藤GWAN博も、誰にも云えないような不安に苛まれていた日々があるのだろうか。優しさが強さになるまでに、幾多の悲しみも見てきたのだろうか。

 「ベランダのすみで、はぐれたコオロギが」「管制塔が、はるかな飛行機を」そして「つれない恋人を、電話のベルが」「幼い声が、母親を」… 世界中が誰かを呼んでいると歌う『星空』。スタンダードな『Fascination』のメロディーに揺れて、思わず僕は涙を落としてしまった。
 星の隙間を縫って、僕も誰かを呼んでいたのかもしれない。じっと我慢していた思いが噴き出すようだった。「星のまたたきさえ、かすむほどに」。

 このアルバムには他にも、佐藤GWAN博のメロディ・メーカーぶりを窺わせる小粋な『ハロームーン』、愉快な『あさりら』、まなざしのやさしい『直ちゃん』、松田優作が歌った『心臓の子守歌(心臓のハードパンチ・改題)』、桃井かおりの『ブスのブルース』、そして名曲『たんぽぽのお酒』等、粒ぞろいの歌が収められている。

 そしてバックを支える“友達”たちの音や、高田渡とシバのデュエットにも、このアルバムが持つあたたかさの理由がある。とても羨ましい。

 


+--prev---index---next--+

 

Copyright2001 Nyanchoo

DO,DE,DA