ぼくがぼくであること 南風
作詞・作曲 佐藤博

佐藤博

 

 教育ママと優等生の兄妹の中で、重圧の日々を送っていた小学校6年生の平田秀一(ヒデカズ)は、通 信簿を貰った1学期の終業式の日、家に帰れず時間をつぶしていたトラックの荷台で眠り込んでしまう。秀一に気付かないトラックの運転手はクルマを走らせ、はからずもそれが秀一のひと夏の家出となる…。

 『タイムトラベラー』や『なぞの転校生』などで知られるNHKの《少年ドラマシリーズ》の中で、この『ぼくがぼくであること』は73年に放映された。僕が小学校6年生の夏のことだ。

 途中轢き逃げをしてしまうトラックは、かそ郡かそ村に着く。秀一はそこで老人と二人で暮らす同い年の夏代と出会う。
 武田信玄の埋蔵金の言い伝え、轢き逃げ目撃といった様々な事件に巻き込まれながら、秀一は見せかけだけの家庭や社会の真の姿を感じ取り、家族のつながりや自分自身で考え生きる事の意味を悟りはじめる。

 そうした“ぼくがぼくであること”を自覚するプロセスが、当時小学生だった僕の心をとらえた。また、秀一が夏代に抱くほのかな恋心も、切なく滲みた。

 原作は、山中恒の児童文学。
 原作とは若干話も変えたテレビ化された作品は、少年の心を代弁するセリフがタイプライターの音と共に表示される、当時としては粋な演出がされていた。
 例えば、盲腸になった夏代をおぶろうとした秀一は、体力のなさによろける。するとすかざず「体育…2」とタイプが打たれる(笑)。
 夏代との再会シーンでも「こういうとき、大人のドラマなら抱き合うのに…」とタイプが打たれる(笑)。

 そんな細かい演出も含め、僕はこのドラマが本当に、本当に好きだった。
 そして、このドラマのカントリー・ワルツの主題歌が、頭にこびり付いていた。

風が運んだ花の匂いに
酔ってしまったぼくなのさ
透き通る桃色の小さな耳に
そっと噛みついてしまったのさ

あの夏の日の午後から
ぼくはずっと酔っぱらいぱなし
いつも心臓がドキドキするし
ほっぺたは真っ赤で恥ずかしい


 誰が歌う何という歌なのかも知らず、僕はこの歌をよく口ずさんだ。
 この歌を本腰で探し始めたのは、中学3年生の時。中古レコード店に足繁く通うようになった僕は、この主題歌のレコードを探すことも忘れなかった。

 (1)少年ドラマ『ぼくがぼくであること』の主題歌だった。
 (2)そらで歌える1コーラス

 手がかりはそれだけ。
 しかし努力もむなしく、いくら探しても、誰が歌っているかさえわからなかった。
 大学生の時NHKにまで出向き、資料を当たった。しかし、このドラマの資料はすべて廃棄され、何も残っていないとのことだった。
 おまけに、衝撃的に哀しい事実も知った。このドラマのフィルムは廃棄処分され、この世には残っていないというのだ。再放送はおろか、ビデオ化もこれでは望めない。

 カントリー・フォーク調と、記憶にある声の印象だけで、中古レコード店では目ぼしい73年頃のフォーク系のアーティストのシングル、アルバムを片っ端からひっくり返し、歌詞カードを探った。
 フォーク系に詳しい音楽評論家に問い合わせもした。
 しかし、どれも実を結ばず、一歩も前進することはなかった。

 80年代、TBSで『テレビ探偵団』という懐かしいテレビ映像を発掘する番組をやっていた。
 何気なくそれを観ていたある日、その日のゲスト柳葉敏郎が是非とももう一度観たいと切望した番組が『ぼくがぼくであること』だった。
 僕はテレビの前で狂喜した。
 フィルムはNHKにも残ってない。しかし、出演者のひとり、平田秀一を演じた有馬義人クンが、放映時にテレビ画面 から直接撮影したという8ミリフィルム(当時は家庭用ビデオデッキなんて無かったからね〜)があったというのだ!
 数秒間流された映像は、決してきれいなものではなかった。が、僕はテレビを観ながらこみ上げてくるものを抑えることができなかった。
 番組には、柳葉敏郎も恋したという夏代ちゃん(奈良岡江里さん)も出演した。

 実は僕もテレビの夏代ちゃんに恋してた。
 きっと日本全国に、夏代ちゃんに恋していた男の子がいたに違いない。ちょっと役トクだぞ、柳葉敏郎!

 しかし、『テレビ探偵団』でも主題歌のことはわからなかった。

 90年代後半、インターネットを始めた僕がまず初めにしたことは、この『ぼくがぼくであること』探しだった(笑)。
 が、まだ現在のように何でもかんでも情報がネット上にある状況ではなく、捜査は難航した。
 やっと『少年ドラマシリーズ』について触れている人のページを見つけ出した。メインは家族紹介の所謂“ファミリーページ”だったのだが(笑)、その中の『少年ドラマシリーズ』のデータベースはなかなか立派なものだった。ちゃんと『ぼくがぼくであること』のデータもあった。しかし、肝心の主題歌の記載がない。そこでページを作っている方にメールで問い合わせてみた。見ず知らずの人に出す、初めてのメールだった。
 回答はすぐに来た。『少年ドラマシリーズ』データベースへの初めての反響だったそうで(笑)、先方も喜んでいたけれど、主題歌については不明とのこと。この方なら絶対!と思っていただけに、落胆も大きかった。が、社交辞令か「私も出来る限り調べてみます」との頼もしい一行も。

 それが社交辞令でなかったことは、それから半年程してわかった。
 曲名やアーティストは相変わらず不明だが、このドラマをテレビから録音していた人がいて、主題歌をパソコンのデータにして送ってくれるというのだ。
 果たして2つのサウンド・ファイルがメールで届いた。

 ひとつのファイルは、主題歌だった。「風が〜運んだ花の〜匂い〜に〜、酔って〜しま〜ったぼくなのさ〜♪」。26年ぶりに聴く牧歌的な歌声に、胸が熱くなった。これだ。ずっと探していた歌がいまここにある。やっと逢えた。感動もひとしおだった。

 もうひとつのファイルを開く。
 それは、劇中のワンシーンの音声ファイルだった。

 夏代のことが好きでも、自分より遥かにおとなな夏代に対し、ひけ目を感じている秀一…。

秀一「やっぱりオレ… 君にはかなわねぇ」
夏代「でも、、、君が好き」
秀一「オレだってさ!」


 不覚にも大粒の熱い涙がぽろぽろとこぼれた。

 ネットを始めて、本当に良かったと思った。
 件のファミリーページは、ファミリーの部分が切り離され、『少年ドラマシリーズ』のページとして新装、現在では押しも押されぬ 『少年ドラマシリーズ』ファンのサイトとして盛況な賑わいを見せている。そのサイトを中心として『少年ドラマシリーズ・復刻キャンペーン』も展開され、『タイムトラベラー』のDVD化という成果 も生んだ。

 一年程して、そのサイトの《掲示板》に来ている方の情報で、主題歌のタイトルとアーティスト名が判明した。佐藤博の『南風』。リィシューされたCDも入手することができた。

 フルコーラス聴くその歌は、歌だけ取り出しても、とても優れた作品だった。
 ドラマの印象上、歌の中の“ぼく”を子供の一人称として捉えていたが、実際の歌は大人の切ない恋の歌。“酔ってしまった”も比喩ではなく、本当にお酒で酔っ払っている歌だった(笑)。

 やっとたどり着いた。このCDを手に入れた時、まさに感無量な思いだった。
 が、感動としては、あのドラマの音源を聴いた時の方が何倍にも大きかった。

 ネットを通じて、誰かがまたそんな心の扉を開けることができたなら… 僕は自分の得意分野であるのと、現在の自分を育ててくれたことに対するオマージュやリスペクトの意味で、『昭和30年代生まれのためのテレビまんが大全集』というサイトを開いた。

 


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