としごろ としごろ
作詞:千家和也 作曲:都倉俊一

山口百恵

 

 まずイントロがいい。
 この歌は山口百恵のデビュー曲でありながら、ほぼ見向きもされないで散ってしまったものだから、「イントロがいい」なんていきなり云われても、思い出せない人が殆どかもしれないけど、ブラスの歌謡曲歌謡曲した響きがホントいい。
 そして「陽に焼けた〜 あ〜なたの胸に〜 眼を閉じて〜もたれ〜てみ〜た〜い〜♪」。音程は不安定だけど、アイドルのデビュー曲なんて不安定に越したことはない(笑)。
 あー、なんて新鮮な歌なんだ! 小学生だった僕は当時、本気でそう思ったものだ。

 さて、この歌がどれくらい見向きもされなかったか。
 同じ「スタ誕」出身の中3トリオのデビュー曲で比較してみると、72年7月発売の森昌子の『せんせい』は60万枚の空前の大ヒット。続く73年2月の桜田淳子『天使も夢見る』が大健闘の15万枚。が、73年5月の百恵ちゃんの『としごろ』は僅か7万枚という惨憺たる結果 に。

 並外れて歌が上手かった森昌子、並外れたアイドルとしてのオーラを放っていた桜田淳子。その桜田淳子の二番煎じ的な印象が山口百恵にはあった。ヘア・スタイルも一緒だし。
 しかし、オーディションで萩本欽一が桜田淳子を見た瞬間に「この子は大スターになる!」と感じたという“見ただけでわかる”オーラに対する、山口百恵は敵ではなかった。
 このまま「もう一押し」と頑張ってしまったら、世紀のスター山口百恵は生まれていなかったかもしれない。

 バッティングしては勝ち目がない… と悟った山口百恵陣営は、デビュー第2弾で早くも方向転換を図った。桜田淳子の明るいイメージとの差別 化である。
 「あ〜なたが望むなら 私〜何をされてもいいわ〜 い〜けない娘だと 噂されてもいい〜♪」。『青い果 実』はメロディもマイナーに変わり、同じ作家(千家=都倉)が作ったとは思えない変貌ぶりである。仕掛けたのはCBSソニーの酒井政利氏。『誘われてフラメンコ』なんてタイトルを先に思いついちゃうような人だから、“青い性”路線も何てこたなかったのだろう。
 この歌で人気が急上昇した山口百恵は、性典路線でおじさんたちをも巻き込み、ヒットを連発。『ひと夏の経験』では「あ〜なたに〜 女の子〜のいちばん〜大切な〜 ものをあげるわ〜♪」とまで歌い出す始末。
 いまの子たちがこの歌詞を聴いてどう思うかはわからないが、昭和48年当時はかなりショッキングだった。ちびまる子ちゃんじゃなくたって、お母さんが歌うのを止めてただろう。

 女の子が心の中でひそかに思っている“大人になりたい願望”を具体的に表した歌詞は、男心を誘惑・刺激し、確かに当たったが、実はこのキワドイ歌詞は、ちゃあんとデビュー曲にもあった。
あなたにすべてを見せるのは
ちょっぴり恐くて恥ずかしい

 つまり、メロディが淫靡なマイナーになってはじめて、この路線のイヤラシさが浮き彫りにされたのだ。もともとマイナー調好みの血筋である日本人。桜田淳子と違うところで、下は小学生の女の子から上は中年のおじさんまでと、山口百恵は幅広いファン層を獲得して行った。
 そしてその幅広い層からの支持は、年月を経ても廃れにくい。ミーちゃんハーちゃんからだけの人気で成り立っていた桜田淳子とは、時を経て命運を分けることになってしまう。

 このマイナー路線が山口百恵のイメージを確立し、レコードの売上げを伸ばした要因であることは間違いないが、その中にぽっとメジャー・ナンバーを落とすバリエーションに、実は絶大なる効果 があったことも見逃せない。

 山口百恵本人の指名でその後の彼女の曲を手掛けることになった宇崎竜童は、既に敷かれていたマイナー路線のレールの上、ずば抜けた発想で『横須賀ストーリー』等、マイナー曲を提供したが、その後シングルとして『夢先案内人』と『乙女座宮』の2曲のメジャー曲も書いている。
 この2曲、その歌だけ取り出して聴いても名曲なのだが、マイナーで固められた山口百恵のラインナップの中にあるからこそ、その良さがまた生きてくる。
 ピークをマイナー路線だけで攻めてしまった中森明菜も、『夢先案内人』や『乙女座宮』のようなタイプの曲をシングル・カットしていたら、また違った道を歩んでいたかもしれない(実際中森明菜は「スタ誕」で、大好きな山口百恵のナンバーの中でも『夢先案内人』を歌っている)。

 そしてこのメジャーな曲が山口百恵の中で輝きを持って見えるのは、『夢先案内人』と『乙女座宮』ばかりではない。
 もうすっかり“百恵イコール短調”で出来上がったイメージの中から遡って聴く『としごろ』は、桜田淳子の眩しすぎる光で見えなかった“伝説のスター”になるべく片鱗を覗かせている。

 


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