RECORDER SONATAS

HANDEL

 

 毎日徒歩で通勤・通学されている方には申し訳ないのですが、僕はどしゃ降りの日が嫌いではないです。
 こうして自宅に仕事場を持ち込む前は、ズボンのプレスが消えてしまうような雨の日は鬱陶しいことこの上なく、特に梅雨時は早く「かっ」っと暑い真っ青な空の夏が来ないかと、切実に待ち遠しく思っていたものですが、濡れないところで眺める雨は、不思議と心も落ち着いていいものです。

 よく「水の音は心にやすらぎを与える」なんて云いますが、確かに川のせせらぎのような音を耳にするのはいいですね。
 カミさんの実家は、まあ山奥(笑)のような処にあるんですが、家のすぐ裏を小川が流れていて、デカイ浴槽に浸かりながら小川のせせらぎや虫の声、時期によっては蛙のゲコゲコなどを聞いていると、それこそ命の洗濯をしているような気分になります。

 そうそう、雨の日にクルマを走らせるのも好きです。
 本牧埠頭あたりにクルマを停め、リクライニング・シートを倒し、強い雨が叩きつけるのを眺めながら午睡をする… こんなことでホッとするのは、神経が病んでいるのでしょうか?(笑)

 さて、雨の日に家で聴くのに決めているCDがあります。
 『ヘンデル:リコーダー・ソナタ』。柔らかい木の音色がとっても心地よい。

 オペラやオラトリオが活動の中心だったヘンデルにとって、室内楽はさほど重要な位 置にあるものではなく、ましてや室内楽の中のブロックフレーテのためのソナタなんて、ちょっと見落とされちゃいそうなポジションにあるという印象は否めません。
 しかし、ブロックフレーテのレパートリーの中ではヘンデルのソナタはとても重要で、このジャンルに於ける傑作と云われているそうです。

 ヘンデルのソナタはバロック的なんですが、とてもシンプルで質素な成り立ちをしています。通 奏低音パートは、音型もリズムも和声もバッハなどに比べるとかなり単純で、苦労無しに産み出されたかのような印象すらありますが、音楽的展開に見られる論理性や、和声のディティールは、とても緻密な構造を成しています。そこに日常の雑事から解放させてくれる要素があるのかもしれません。

 この『ヘンデル:リコーダー・ソナタ』を何故手に取ったか? 種明かしをしてしまえば、村上春樹さんの『1973年のピンボール』という小説に出てきたんです(笑)。
 村上さんはこの楽曲がお気に入りのようで、ネットでのファンとのやり取りの中でも、
 「ヘンデルのリコーダーソナタは、朝の6時半に聴くには、もっともふさわしい音楽のひとつだと思っています」と答えています。
 が、'80年に書かれた『―ピンボール』の中では、
 「僕と僕のガール・フレンドはこのレコードをかけっぱなしにしたまま何度もセックスしたものだ。レコードが終わり、針がパチパチと音を立てて回りつづけるまで、僕たちは何も言わずにずっと抱きあっていた」とあります(笑)。

 僕には、雨の日に聴くディスクです。

 


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