また見つけたよ 夕暮れ
作詞・作曲 友部正人

友部正人

 

 '79年、受験勉強(?)中、ラジオの深夜放送で流れてきたのが、友部正人の『一本道』って歌だった。
 鉛筆を持つ手が止まり、五感のすべてがラジオに吸い寄せられた… 大袈裟じゃなく、そんな感じ。後で知るんだけど、この歌にノック・アウトされたミュージシャンはとても多いらしい。

にんじん 翌日、すぐにレコード店に走った。でも、友部正人のコーナーはおろか、「た」行のコーナーにも友部正人のレコードは置いてなく、数十軒めの馬車道のディスク・ユニオンで、やっと『にんじん』というアルバムを見つけた。そこに『一本道』は入っていた。

 この『にんじん』というアルバムは、骨の髄まで滲みた。こんな胸をえぐるような歌を唄うアーティストがいたんだと、愕然となった。受験勉強どころの騒ぎじゃない。
 ボブ・ディランの影響がありありと見てとれるその歌たちは皆、圧倒的な存在感を持っていた。特に、歌詞の有り様には、詩人の鼓動が見えた。

心やさしい月の輪熊が
今夜もマイクにキスをする
〜『君が欲しい』

どうして君は行ってしまうんだい
どうしてぼくはさよならって云うんだい
〜『にんじん』

ああ 中央線よ空を飛んで
あの娘の胸に突き刺され
〜『一本道』

 もっともっと友部正人の歌を聴きたいと思った。
 またレコード店をまわった。そして見つけたアルバムが、そのままズバリ『また見つけたよ』(笑)。

このぼくを精一杯好きになっておくれ
そして、今度の夏が来たらさっさと忘れておくれ
このぼくを大切になんて扱わないでほしい
君を大切な人だなんて思わせないでほしい
〜『反復』

歩く夜道が重たくて
また飲み明かしてしまいましたよ
男はひとり誰もいなくなった空を見上げている
空が落ちて来る
〜『空が落ちて来る』

 しぼり出すような歌声と、上手いんだか下手なんだかわからないギター、そして明らかにヘタクソなハーモニカに、僕は完全に参ってしまった。
 ヘビィな思いを叩き付けるような歌の中、最後の『夕暮れ』というやさしい歌からは、まさに子どもの頃に吹いていた夕方の風に頬を撫でられたようで、わけもわからず目頭が熱くなった。

 「ぴあ」で友部正人のライブ情報を繰り、下北沢のスーパーマーケットというライブ・ハウスへ向かった。その後、いくつもの思い出を作る下北沢という街に、初めて足を運んだ。

 客は数えるほどだった。
 ギターと、ホルダーに括り着けられたハーモニカ。ひとり歌う友部正人のパフォーマンスは素晴らしかった。ギターだけでこれだけ人を感動させることができる。僕は胸の高鳴りを抑えることができなかった。

 アンコール。

 「リクエストがあれば…」という友部正人の呼びかけに、「『夕暮れ』を聴かせてください!」と叫びたかった。叫びたかったが、十数人の客の中、声を出す勇気がその時の僕にはなかった。
 誰からもリクエストの声が掛からないまま、友部正人は黙ってアルペジオを始め、訥々と歌い出した。

 「暮れゆくこの街の空を〜 眺ながめながら〜
  暮れゆくこの街の空を〜 眺ながめながら〜
  暮れゆくこの街の空を〜 眺ながめながら〜
  ぼくはカレーライスを食べている〜♪」

 喉まで出かかっていた『夕暮れ』だった。

 


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