G.Gershwin GERSHWIN PLAYS GERSHWIN THE PIANO ROLLS

George Gershwin

 

 「バッハの『ブランデンブルグ協奏曲』をフレンチ・ピッチで演奏する」という催しが、“バッハ没後250年”の昨年あった。

 この“フレンチ・ピッチ”っていうのは、18世紀フランスのベルサイユ宮廷などで用いられていたもので、現在の標準ピッチである440Hzよりも約全音低い392Hzのこと。
 フレンチ・ピッチを採用する意図は、「バッハの演奏していたピッチで」ということなんだろうけど、全音近く下がったピッチで演奏するということは、チェンバロや弦楽器にとっては弦の張力も変わっちゃうワケで、単に音の高さが変わるということだけじゃなく、きっと曲全体の響きも大きく変わってきちゃうんじゃないのかな。

 トン・コープマンは「私はバッハのように演奏する」なんて豪語したらしいけど、バッハの演奏録音が残っているわけじゃなし、自筆譜や文献をいくら眺めたところで解答が得られるってものでもないんだから、「これがバッハの演奏だ!」なんて云われたところで、真偽のほどはわからない。だったら現代のベストな状態での演奏を聴かされる方が余程良いと思うのだけれど…。

 チェンバロやオルガンの名手として知られたバッハの演奏は確かに聴いてはみたいけど、所詮は叶わぬ 夢。それはバッハに限ったことではなく、モーツァルトもベートーベンもリストもショパンもドビュッシーも然り。

 しかし、ガーシュインまで来ると、事情は違う。
 クラシックと呼ぶには憚かれるような(かといって現代とも呼びにくい)時代に登場したガーシュインの自演録音は存在する。

 ガーシュインは、音楽の才能には恵まれていたけど学業はさっぱりだったらしく、15歳で高校を中退。そして音楽出版社のソング・ブラッガーの職に就く。ソング・ブラッガーっていうのは、ショー・ビジネスの関係者が楽曲を買いに来た時、「これってどんな曲〜?」って訊かれたら「こんな曲で〜す」って弾いて聴かせるピアニストのことで、まあデモ・テープの実演者みたいなもの。
 ソング・ブラッガーとしてのガーシュインの評判はすこぶる良く、「ガーシュインならこの歌にぴったりのピアノを弾いてくれるよ〜」と大絶賛。
 そうしてガーシュインのピアノのテクニックや表現力は益々磨かれ、ソング・ブラッガーから劇場のリハーサル・ピアニスト、歌手の伴奏者、ミュージカルの作曲者… と、とんとん拍子に出世。
 これらの経験が彼の作曲における糧となったことは疑う余地はないのだけれど、今回注目したいのは、彼の作曲の才能ではなく、プレイヤーとしての力量 。そーとー上手かったのではと、期待も膨らむ。

 入手しやすいのが『GERSHWIN PLAYS GERSHWIN THE PIANO ROLLS』というCD。
 アーティス女史によって復刻された本盤は、ガーシュイン本人のピアノロールをデジタル録音。この時代の他のアーティストの録音と比較しても音質は綺麗で、収録作品も『Rhapsody In Blue』『Swanee』『An American In Paris』といった有名曲から、『When You've Got'em』『On My Mind The Whole Night Long』といった珍しい手合いまであって、とっても充実。
 で、肝心のプレイの方はと云うと、これがイイんだ、やたら。絶妙なピアノテクニックと、ペダルをあまり使わない乾いた音。当時の音楽の専門家からは不評だった楽曲の素晴らしさは、もう説明の必要もない(笑)。

 僕がガーシュインの曲のプレイで好きなのは、ビル・エバンスの『I Loves You Porgy』、エロール・ガーナーの『Strike Up the Band』、そして山下洋輔の『Rhapsody In Blue』。
 でも、この『GERSHWIN PLAYS GERSHWIN THE PIANO ROLLS』の本人の演奏は群を抜いていい。お薦め。

 『GERSHWIN PLAYS GERSHWIN THE PIANO ROLLS』には、続編のVol.2があるけど、こっちはガーシュインの曲は2曲のみで(あとは他人の作品を演奏)、ガーシュインの曲のファンにはちょっと物足りないかもしれないけど、彼は自作以外の曲を人前で演奏するということは殆どなかったらしいので、これも貴重な逸品。

 ほかにも『Great American Songwriters-George & Ira Gershwin』中の『I'd Rather Charlston』は、ガーシュインのピアノ伴奏でフレッド・アステアとアデール・アステア姉弟が歌を唄うという豪華絢爛テイクで、これまたお薦め。

 


+--prev---index---next--+

 

Copyright2001 Nyanchoo

DO,DE,DA